『破壊する創造者』(フランク・ライアン著、早川書房、2011年)を読んでみた。
著者は進化学者であり医師である。本書は、「ヒトゲノムはどんな力によって今のように進化したか」について考察したものである。
ウイルスは破壊もすれば創造もする。ウイルスが破壊者になるか創造者になるかは、宿主となる生物との相互作用で決まるから、なかなか予測はできない。生物はそんなウイルスと「共生」している、という視点で書かれている。ウイルスがコアラのゲノムの一部として親から子へ行き継がれるようになってしまったという、ウイルスがコアラと共生している例を紹介している。一方、HIVと呼ばれるレトロウイルスはリンパ球の中で何年間も潜伏する。AIDSウイルスは、まだ人類という宿主に適応するように進化していない、と想定している。
2001年2月12日、ヒトの全ゲノムの一通りの解読を終えたが、ヒトゲノムのサイズが予想以上の小さくて、誰もが驚いたという。約2万個に過ぎないのだ。癌や自己免疫疾患とウイルスの関わりが医療者にとっては興味深い。
進化に関する論述は難しくて歯が立たない。自然選択と突然変異だけでは、生物の進化は説明できない、ということのようだ。
「ウイルスを中心に論じた進化論」であるが、ウイルス研究の最前線を知ることができよう。(山本和利)