『ヒマラヤのドン・キホーテ ネパール人になった日本人・宮原蘶の挑戦』(根深 誠著、中央公論新社、2010年)を読んでみた。
ヒマラヤに魅せられた山男が、ネパールのために尽くしている話である。彼は若くして日本の職場を離れ、ネパール政府の家内工業局に就職し、その後、観光事業を立ち上げた。
王制が倒れてマオイストに支配されたネパールで、「貧困の一番の理由は政治腐敗である」という持論をもって、負けるのを承知で選挙を戦う現在の記述から始まる。
青春時代の生き方やその後の他者への協力を惜しまない起業家としての生き方も魅力的である。航空路の開拓でも苦労する。利潤は二の次で、夢の実現が先行する。常日頃の交友関係に根差す部分が大きい。それが強みであり、かつまた限界であるようだ。
60歳にしてエベレスト登頂を目指し、残り高度差数十メートルのところで、視力が低下してしまい引き返す決断をする話などが紹介されている。
70歳を過ぎてもネパールで夢を追い続ける人生の軌跡は、日本で今後の生き方に迷っている私には大変参考になるものであった。(山本和利)