4月15日、Evidence-Based Medicine 診断編1。はじめに、診断のプロセスについての解説をした。 4つのパターンが知られている。
1)パターン認識
2)多分岐法(multiple branching method)
3)仮説・演繹法(hypothesis-deductive method)
4)徹底的検討法(method of exhaustion)
胸痛の症例。
■40歳の女性Aは階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが心臓病ではないかと心配して来院した。
■60歳の男性Bも階段を昇った後、左前胸部にしめつけられるような痛みを5分間経験した。その後、立ち止まって休んだら治まったが、やはり心臓病ではないかと心配して来院した。
■30才の女性Cは階段昇降時にズキンという10秒間続く左前胸部痛を主訴に来院した。
命に関わる病気を見逃してはいけない。4 chest pain killer(急性冠症候群、肺塞栓症、解離性大動脈瘤、緊張性気胸)。
どんな疾患を考えるか。
労作性狭心症で考えてみる。科学的に診断するためには、はじめに、事前(検査前)確率を想定することが大切である。
一般に医師が診断に用いる推論は患者の年齢,性別,人種,主訴から,ときに身体所見や検査データから初期仮説を形成することから始まる.これは経験的,主観的なものであるため、厳密なものではないが、データを蓄積することによって一般化できることもある
初期仮説で想定した病気の検査前確率は,病歴と身体所見から推定される.
学生に想定させるとBさん(病気の可能性の高い場合)を低めに、逆にCさん(病気の可能性の低い場合)を高めに設定する傾向にある。今回もそうであった。
2×2表を書いての検査後確率の計算。検査の結果(横に)と真の診断の結果(縦に)である4種類の組み合わせを表現した図である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 至適基準・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・疾患あり・・・・・・・・・・疾患なし
簡易検査陽性・・・ TP(真陽性数:●)・・ FP(偽陽性数:▲)
簡易検査陰性・・・ FN(偽陰性数:■)・・ TN(真陰性数:◆)
科学的な考え方。Bayesの定理
18世紀に英国人Bayes Tが考えたもので「はじめに考えた可能性」に「あとから得られた情報」を加味すると「あとで考える可能性」が得られるというものである。診療の場面では(検査前確率)を想定して、検査の(感度・特異度)を用いて計算すると(検査後確率)が得られる、となる。
検査結果が陽性であれば即診断確定というわけにはいかず、表でいうと、検査が陽性の場合の検査後確率=●÷(●+▲)であり、検査が陰性の場合の検査後確率=■÷(■+◆)である。
感度=●÷(●+■)=TP/(TP+FP)と表される。感度を知るためには、表を縦みることがポイントである。
特異度=◆÷(▲+◆)=TN/(FP+TN)と表される。特異度を知るためには、感度と同様に表を縦にみることがポイントである。
診断しようとする疾患の検査前確率がCさんのようにかなり低いとき又はBさんのように高いときには、検査後確率の変動が少ないので、診断のためにあえて検査をする必要はない。また、検査前確率が高いときには、陰性結果であってもまだかなり検査後確率は高いことが多く(Bの場合は85%)、陰性結果のみで最終診断とすると偽陰性という誤診になりかねない。検査前確率が低いときには、陽性結果が得られても(Cの場合5%)、偽陽性の可能性の方が強く残る。当然であるが、精査すべきなのは、Aさんのように疾患があるかないかはっきりしない場合である。
検査前確率の応用:診療の場
病気かどうかわからない人が集まる市中病院(A)、病気の人がたくさん紹介されてくる大学病院(B)、病気の人が少ない人間ドックや検診(C)に置き換えて考える.
大学病院では検査前確率が高いので、結果が陽性の時に病気と診断しても間違うことは少ない。一方、大学病院と同じ方法を用いて、診療所や検診の現場で実施すると、たとえ結果が陽性であっても偽陽性の可能性が高いということである。
すなわち、診断過程はどのような患者層を診ているかによって違って然るべきであると言えよう。
検査前確率の応用:検査前確率の間違った設定
ある患者について、大部分の医師が想定する検査前確率とはかけ離れた検査前確率を想定する医師は、確定または除外診断に至るまでに、さらに高額で危険な検査を追加するはめになる。
学生さんはこの講義を受けて、しっかり問診をし身体所見をとって検査前確率を適切に想定するということの重要性を認識してくれたようだ。(山本和利)