1年生の医学史の中の『ファシリテーションのコツ』の授業を行った。
まだ、日本に馴染みのない概念なだけに、講義の準備は苦労した。
まずはじめに、先週行ったプレゼンテーションの授業の学生からの感想を紹介した。
自分たちの書いたレポートがどのように反映されているがわからないのではレポートも書く気が失せるであろう。
プラスの評価をしてくれるコメントが多く、講師としては非常に嬉しかった。中には、手厳しい指摘も多く、
「スライドのミスは命取り」
「話し方がきつすぎる」という指摘があった事を紹介した。
確かに当日は自分のパソコンではなく、他人のパソコンを使用したため、文字の配列などがずれてやや見にくいものとなっていた。
ただ、
このことだけをプリントに記載することの是非について考えてもらい、
「建設的にアドバイスする」の意味を一緒に考えてもらった。
これの意味するところが今日の「ファシリテーション」にも重要であるという前振りを行い、講義の本題に入った
まず最初に、
「ファシリテーション」の日本語訳を考えてもらった。
多くの学生が初めて聞く言葉のようで、
「分からない」との回答が目立った。
「司会をうまくする」
「物事をうまく決めるようにする」などという意見もあった。
ファシリテーションとは
「知的化学反応の触媒」のことであると紹介し
①中立的で、
②道しるべを示し、
③チームワークを引き出し、
④成果が最大となるように、
「支援する」ことであると説明した。
「自らリーダーとなり率先することではなく、あくまで、メンバーの能力をうまく引き出し、活用する手助けをするのである」と説明した。
以上の説明を聞いた上で、「誰」のファシリテーションが良いと思うか?
を聞いてみたところ、
「島田紳助」・「岡田武史」・「上田晋也」などの意見があった。
スライドでは「田原総一朗」「島田紳助」「小堺一機」を紹介したところ、
小堺一機のところで「あ~」という反応が起きた。
しかし、この人達は良き司会者であるかもしれないが、良きファシリテーターではない。
実のところ、日本には本物のファシリテーターは少ないと考えている。
参考までにGoogleで検索した結果を紹介した。
『ファシリテーション』 46万件
『facilitation』 1060万件
『プレゼンテーション』 497万件
『presentation』 3億1700万件
『札幌医科大学』 93万件
結局、検索結果としては、海外と2ケタほどの認知度の違いがあり、
プレゼンテーションと1ケタ違い、
札幌医科大学の半分程度の知名度しかないということだ。
この後、
「ファシリテーターの道具箱」(ダイアモンド社)の中に紹介してあった、ファシリテーションの概念図を紹介したが、やはりこのあたりが眠気の最も危険地帯だろう。
聴衆にとって、「新しい概念」の説明は最も難しいことだ。
どうしても、「スライド」が「スライデュメント」になってしまう。
以下の喩えを紹介した。
ファシリテーターは幼稚園児の遠足の引率の先生である。
「今日は〇〇公園に行きましょう」と道しるべを示し、公園についたら、「道路にはでないで、公園の中であそびましょう」という最低限のルールを決めて、後は子供たちに好きなことやらせて充分に遊ばせる。
取っ組み合いの喧嘩が始まったら、それはきちんとなだめて止める。どちらかを一方的に叱るようなことはしない。
充分遊んだら、最後はみんなでバスに乗って帰るようにする。(家が近いから徒歩で帰りたいとか、電車に乗りたいという意見が出ても、最後はみんなでバスに乗って、みんなで仲良く歌を歌って帰るようにする)
これをなんの違和感もなくスムーズに行えるのが、良いファシリテーターだと。
以上の喩えを紹介した。
また、フィンランドの国語の教育方法をまとめた、フィンランド・メソッドを紹介し、その教育を受けた小学5年生が、「人と話すときに気をつけること」という課題でまとめた10箇条を紹介した。
他人の発言をさえぎらない
話すときは、だらだらとしゃべらない
話すときに、怒ったり泣いたりしない
わからないことがあったら、すぐに質問する
話を聞くときは、話している人の目を見る
話を聞くときは、他のことをしない
最後まで、きちんと話を聞く
議論が台無しになるようなことを言わない
どのような意見であっても、間違いと決めつけない
議論が終わったら、議論の内容の話はしない
とても小学5年生がまとめたとは思えない。
このような教育を受けた大人を相手にファシリテーションを行うのは非常に簡単だが(最低限のルールがすでに幼少期から教育されて完成されている)そうでない日本人を対象にファシリテーションをするには、やはりファシリテーターがそれ相応の努力・工夫をしなければならないだろう。
最後に本日どうしても覚えてほしいこととして、
「PNPフィードバック」を紹介した。
Positive-Negative-Positive フィードバック のことで、相手の意見に対し、この方法を意識することで、議論を円滑にすすめることができるようになると教えた。
池上彰は、良きプレゼンターであり、良きファシリテーターであるが、
「いい質問ですね」とお決まりのセリフを言う事により、もうすでに最初のP は終わっており、後は引き続くNPを考えるだけで良いのである。
医学史の講義では今後、
1グループが、30分間で与えられたテーマについてプレゼンテーションし、残りの15分を別のグループが会場をファシリテートすることにより議論を深めていくという授業形態をとるが、
今回の松浦の2回の講義に対する質疑応答を、例として松浦自身がファシリテートしてみせた。
バズセッションという方法を紹介した。
講義終了後にいきなり「何か質問ありますか?」と会場に呼びかけても学生が手を挙げることはないため(実はこの日は予想に反して学生が一人手を挙げてくれたのだが、空気を読んでもらい、挙手を取り下げてもらった!)
まずはグループ内(6-9人)でこの2週間の講義について話しあってもらった。
その際に一人リーダーを決めて、グループ内の議論をファシリテートして、発表してもらうこととした。
実際のバズセッションでは「会場の近くの人と少し話しあってみてください」という時間を作ってから、質問や意見を受け付けるという方法を取ることが多い。
15分後に「グループ内での意見を発表してください」と問いかけたところ、なんと、指名しなくてもパラパラと手が挙がるようになっているではないか!!
恐るべし、ファシリテーターの道具箱!!
学生の発表は、きちんとPNPに乗っ取った発表で、聞いているこちらは非常に心地が良いが、まだまだ、ぎこちなさが残り、会場から笑いが起きていた。
松浦の「N」の部分としては、
「司会者」との区別がよくわからなかった。
「これがファシリテートだ!」というようなはっきりしたものを示していないので、よくわからなかった。
「ギャグ古く、時々スベるので、痛いなぁと思いつつ、ジェネレーションギャップを感じた」
などがあったが、きちんと「P」で包んであるため、今後の医学史の発表ではそのあたりがわかるようにしてきましょう!と素直に思え、次に繋がるフィードバックであった。
(助教 松浦 武志)