札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2011年4月26日火曜日

4年生EBM 「情報収集のしかた」講義 

遅ればせながら
先週の金曜日に、
医学部4年生のEBMの中の「情報収集」の講義をした。

EBMの4つのステップ
  Step 1 臨床上の疑問の定式化
  Step 2 情報収集
  Step 3 情報の批判的吟味
  Step 4 自分の患者への適用
Step2の情報収集はどのようにしたらいいのだろうか?という講義。


ごちゃごちゃ理論を説明しても、眠くなるだけなので、
実際の症例を提示。

<症例>
50歳の男性がテレビで肺炎を予防するワクチンがあると聞いたため
打って欲しいと来院。特に既往歴はない

「疑問の定式化(PECO)」
Patient :   どういう患者さんに
Exposure :  何をしたら
Comparison : 何と比べて
Outcome :  結果がどう違うのか

これに当てはめさせたところ…
ほとんどの学生は、配布したハンドアウトの次のページの「答え」をみている。
やはり、ハンドアウトを先に配るのは良くないか?

「疑問の定式化(PECO)」
Patient :  特に既往歴のない50歳男性に
Exposure :  肺炎球菌ワクチンを打つと
Comparison : 打たない場合に比べて
Outcome :  死亡率が低下するか? 肺炎が減少するか?

答えを見る前に当てられてしまった学生は、
自信なげに答えたが、「そう!そのとおり!」

で、その答えを見つけるために何を調べるか?
例として、

2chに投稿したら、「名無しさん」が答えてくれた。
『教えてgoo!』に投稿したら『医師』という人が答えてれた。
『Yahoo知恵袋』に投稿したら『専門家』という人が答えてくれた
『肺炎球菌』でググッたところ、Wikipediaに予防という項目があった
STEP内科学に記載されていた
新臨床内科学に記載されていた
朝倉内科学に記載されていた
QB2011年版に国家試験問題として出題されていた

以上を紹介したところ、
上記の順で信用があるようだったが、
「自分の父親にそのとおりにしますか?」と聞いたところ、
「・・・・。もう少し、他をあたります」とのこと。
どうも、教科書は言うほど信用されていないらしい。。。


そこで、ネット上で、
1)根拠が明白で、
2)信頼できて、
3)すでに批判的に吟味され終わっていて、
4)家族の治療にも使えるサイト

として、
Up To DateとDyna Medを紹介した。

Up To Dateは個人契約の場合500ドル/年かかるが、
札医大の情報センターから
学内者はタダでアクセスできることを紹介した。
知らない学生が意外に多く、もったいない話である。

また、
英語が苦手・嫌い・見るのも嫌という学生向けに
「英辞郎」と「ライフサイエンス辞書」という
ネット上の無料の医学英語辞書を紹介した。

また、Google Chrome全文翻訳や、
Googleツールバーのマウスオーバー辞書など、
英語のハードルをできるだけ下げるツールの紹介も行った。 



実際に「pneumococcal vaccine」をコピペして、
Up To Dateで検索したところ、

肺炎球菌ワクチンは、
侵襲性肺炎球菌感染症の予防にはなる。
肺炎予防や死亡率の低下については、確たる証拠がない
65歳以上の人には勧められる
2-64歳は慢性心不全・慢性肺疾患・糖尿病・喫煙者・アルコール依存
慢性肝疾患・髄液漏・人工内耳・長期療養施設入居者の人に勧められる。

と疑問に対する答えが明確に記載されていた。


Dyna Medも同様に検索したところ、
UpToDateと同様の結果が得られた。


一応、日本語の有用サイトとして、

メルクマニュアル
Minds
今日の診療(これも学内者はタダでアクセスできる)

以上を紹介した。


まとめとして
英語サイト
 EBMにのっとり、明確な情報がある。
 ほとんどすべての臨床情報が得られる
 更新が頻繁=最新情報に当たれる

日本語サイト
 EBMというよりは著者の経験に基づくことも
 必要な情報がない場合もある
 更新が遅い=最新情報でないことも

と紹介した。
しかし、英語サイトにも問題があり、

 疫学データは欧米(米国)のデータが基本
 日本で採用されていない医薬品もある
 薬品の使用量も、米国での使用量が掲載
 そのまま日本の医療に適応はできない
 誤訳により、致命的なまちがいを犯す可能性がある。

など、注意が必要なことを示した。

まとめとして、
① とりあえず、ググる。 
② おすすめ教科書を読んでみる。
③ 解決しなければ、UpToDateなどの二次資料を英語で読む。

というアプローチ法を紹介した。


おすすめ教科書として、

Harrison's Principles of Internal Medicine 18th.Ed.
Current Medical Diagnosis & Treatment 2011
ハリソン内科学 第3版 (原著第17版)
ワシントンマニュアル 第12版
10分間診断マニュアル―症状と徴候 時間に追われる日々の診療のために
考える技術―臨床的思考を分析する
聞く技術―答えは患者の中にある〈上・下〉

以上を紹介した。


今回の講義は、マニュアル的な情報提供に終わってしまう可能性があったため
あえて配布資料に印刷していないスライドを途中にいれて、
興味を引いたりと、いろいろ工夫したが、
1-2人があちらの世界に招かれていた。

講義後の感想では、
「ぜひ紹介されたサイトを利用してみたい」
「WikipediaからUpToDateにしてみます」
といった前向きな発言が多く、
有意義な講義であったと思われた。

半年後にEBM情報収集の実習があるので、
その時にこの度の講義の効果が出ていることを期待したい。


                       (助教 松浦武志)