『墓標なき草原(上)(下) 内モンゴルにおける文化大革命・虐殺の記録』(楊海英著、岩波書店、2009年)を読んでみた。
本書は、漢民族がモンゴル人を大量虐殺した歴史をモンゴル人の視点から再現したものである。中国にもモンゴル人が住む広大な地域がある(内モンゴル自治区)。近代日本がモンゴル人の草原に触手を伸ばしたがゆえに、モンゴル人の領土が中国に占領されたという経緯がある。中国共産党は「モンゴル人たちは対日協力者」だと断罪し、1967-70年にかけての大規模なジェノサイドを発動した。本書は14人のモンゴル人の語りを中心に、かれらの人生を描いている。単に中国を批判するにとどまらず、矛先は日本にも向けられている。
ここでは孫文は漢人たちの民族主義を最優先させた人物に過ぎないと評価は低い。文化大革命は防衛上の問題があり、内モンゴルからはじめられた。
見開きに掲載された二枚の写真が印象的である。文化大革命前と後のモンゴル人の初診であるが、かつての笑顔が消え、暗く額に皺を寄せた写真になっている。
中国の内外の若者においては熱狂的に現中国を支持している者が多いようである。本書にあるような抑圧された人からの発言と中国内で満足して生活している人からの発言には大きな隔たりがあるだろう。抑圧された人の声に共感してしまう傾向のある私なので、読者の方にはブログからの印象ではなく、ご自分で様々な情報に接してじっくりと判断していただきたい。(山本和利)