『清冽 詩人茨木のり子の肖像』(後藤正治著、中央公論新社、2010年)を読んでみた。
著者はノンフィクション作家であり、スポーツものを含めてたくさんの著作がある。この著者の新作は意識して読むようにしている。
本書は、茨木のり子の生涯を辿りながら、要所に作品(詩)を掲載している。
昭和天皇の在位が半世紀に達した1975年10月の公式の記者会見に対する反応がすごい。
天皇がホワイトハウスで「私が深く悲しみとするあの不幸な戦争」という発言に対して、戦争に対して責任を感じているという意味かと記者が問うた。それに対して、天皇は「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究していないのでよくわかりませんから、そういう質問にはついてはお答えが出来かねます」という応答があった。それに触れて彼女は「四海波静」という作品を書いている。
戦争の責任を問われて
その人は言った
そういう言葉のアヤについて
文学方面はあまり研究していないので
お答え出来かねます
思わず笑いが込みあげて
どす黒い笑い吐血のように
噴き上げては 止まり また噴きあげる
・・・・・以下略・・・
タブーとしての領域にあえて「野暮を承知で」踏み込んで逃げない。そこを著者は評価している。
私は次の詩が好きだ。
としをとる それはおのが青春を
歳月の中で組織することだ
彼女の詩集をあらためて読みたくなった。(山本和利)