「奇跡のリンゴ」(石川拓治著:幻冬舎 2008年)を読んでみた。これはNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で放映された内容をさらに取材を重ねて本にしたものである。青森県岩木町に住む木村秋則氏が何気なく出会った一冊の本(福岡正信氏の「自然農法」)に触発されて無農薬リンゴ栽培にのめり込んでゆく生き様の記録である。数学や機械いじりが好きだったリンゴ農家次男に生まれた青年が、トラクターに魅せられてトウモロコシ栽培をはじめ、いつしか無農薬リンゴつくりに憑かれてゆく話である。リンゴが実らず「カマドケシ」(収入がない)となるも、赤貧、異端視に耐え、自殺寸前にまで追い込まれながらリンゴに関するあらゆる本を読破して様々な実験を繰り返し、遂に成功に至る物語である。
本や人との偶然の巡り合わせ(農薬アレルギーの配偶者等)、周囲のサポートなどに加えて、「ひとつのものに狂えば、いつか必ず答えに巡り合う」という強い信念が大切であると本書を読んで思い知らされた。
様々な試みに加えて木村秋則氏はリンゴを子どものように扱い時間があると「リンゴの木に語りかける」ことをしていた。その中で次の言葉が印象的である。語りかけることをしなかったリンゴは全て枯れてしまった。それが今でも心残りであると。
地域医療の現状を憂いてばかりいないで、やり通す信念が大事なのだ。地域医療にとって語りかけ続けるべきリンゴとは何なのか?(山本和利)