「吉本隆明のDNA」(藤尾京子著:朝日新聞出版 2009年)を読んでみた。これは著名人6人への吉本隆明についてのインタービューで構成されている。巻末の(著作発表年を中心としたと)断り書きのある吉本隆明略年譜が可笑しい。1996年 72歳 伊豆の海で溺れる、とある。このとき入院したのが仲田和正先生のいる西伊豆病院である。(その後の作品に溺れたことが影響を与えたということであろうか)
この中で中沢新一氏と糸井重里氏の章が私には大変参考になった。オウム事件で世間から批判され袋たたきにあった中沢氏が体験を振り返って「ある意味、死ぬほど苦しみました」と答えた言葉がズシンと来る。このような状況で本を次々と書きあげてゆく。吉本死を評して、思想の神髄がにじみ出るのは、生き方というより「たたずまい」ではないか、と。吉本隆明は安全な枠組みを完全に取っ払って突き進んでゆく。
糸井重里氏も挫折の人であったことがわかった。吉本隆明の本を読んでもわからないので読んでいないという。私もそうである。さっぱりわからない。彼は20年に及ぶ家族も交えた付き合いの中で、吉本氏を「逸らさない」魅力を持つ人と評価している。吉本隆明は彼の著作を読むよりも話を聞く人ではないかと思った。孤独と向き合い、人と人との新しい形のつながりを求める「心のあるよう」の人、と吉本を評価している。
この本(志を曲げず、孤独にジッと耐えてきた先人の生き方の本)は、今後の生き方に悩む者にどう乗り越えてゆくかの示唆を与えてくれるであろう。(山本和利)