札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年5月27日木曜日

科学性と人間性

 5月24日、北海道大学医学部2年生を対象に「科学性と人間性」という講義を行った。「医療と社会」に次ぐ今年度の第2回目。
導入は私自身の若かりし日に実践した静岡県佐久間町の地域医療の紹介から入った。その後、オリバー・サックス『妻を帽子とまちがえた男』に収録されている、診察室では「失行症、失認症、知能に欠陥を持つ子供みたいなレベッカ」、しかし、庭で偶然みた姿は「チェーホフの桜の園にでてくる乙女・詩人」という内容を紹介した。サックスは言う、「医学雑誌の支配的テキストは苦しんでいる人を必要とする。しかし、その人々の個別的な苦しみは認知されえないのである」と。
次にAntonovskyの提唱する健康生成論(サルトジェネシス)を紹介。病気になりやすさではなく、逆に健康の源に注目。健康維持にはコヒアレンス感が重要らしい。1)理解可能であるという確信「こんなことは人生にはよくあるさ」。2)対処可能であるという確信「なんとかなるさ」。3)自己を投げ打つに値するという確信。「挑戦してやろうじゃないか!」
医学教育における視点の変化(ロジャー・ジョーンズ、他:Lancet 357:3,2001)を紹介。
研修医、総合医には、持ち込まれた問題に素早く対応できるAbility(即戦力)よりも、自分がまだ知らないも事項についても解決法を見出す力Capability(潜在能力)が重要であることを強調した。その根拠として、Shojania KGの論文How Quickly Do Systematic Reviews Go Out of Date? A Survival Analysis. Annals of Intern Med 2007 ;147(4):224-33の内容を紹介した。効果/治療副作用に関する結論は,系統的レビューが発表後すぐ変更となることがよくある.結論が変更なしに生き延びる生存期間の中央値は5.5年であったからである。(5年間で半分近くが入れ替わる)
N Engl J Med の編集者Groopman Jの著書 “How doctors think” (Houghton Mifflin) 2007を紹介。60歳代の男性である著者が右手関節痛で専門医を4軒受診した顛末が語られている。結論は“You see what you want to see.”(医師は自分の見たいものしか見ていない)。
ここで医学を離れて、考古学の世界「神々の捏造」という本を紹介。2002年10月、イスラエル。イエスの弟、ヤコブの骨箱が「発見」されたが、本物かどうか科学的に検証できるのか。
次に「狂牛病」の経緯を紹介。1985年4月、一頭の牛が異常行動を起こす。レンダリング(産物は肉骨粉)がオイルショックで工程の簡略化により発症を増やしたと考えられる。1990年代に英国で平均23.5歳という若年型症例が次々と報告。社会のちょっとした対応の変化が医療に影響する。
次に農業の話。Rowan Jacobsen「ハチはなぜ大量死したのか(Fruitless Fall)」を紹介。2007年春までに北半球から四分の一のハチが消えた。何が原因か科学的に検証してゆくが、その結末は?
授業の後半は、ナラティブの話。6つのNarrative要素:Six “C”を紹介。授業はまだまだ続く・・・。
学生さんの講義に関する感想文を読むと、医学以外の話が好評のようだ。ほとんどの人が今後の生活の仕方の参考になったと答えてくれており、講義をした者として大変うれしい。(山本和利)