5月19日、札幌医科大学においてニポポ・スキルアップ・セミナーが行われた。講師は勤医協中央病院の田村修先生である。年間3万人の自殺者があり、自殺の動機は健康問題、経済問題が多い。4つの類型にすると、1)精神病状態による自殺(幻覚妄想から逃れるため)、2)うつによる自殺(悲観的思考に支配され遂行)、3)衝動的な自殺(一番多い、急激な葛藤、酩酊状態、パラ自殺)、4)倫理・哲学的な自殺(安楽死、自殺幇助)、となる。
患者を診たとき、身体的評価(身元の確認、自殺手段の確認、バイタルサイン、外傷状況の評価、意識・見当識の確認)、精神医学的をする。治療をする際には、誤嚥性肺炎、低体温、横紋筋融会解症を念頭に置くべきである。最近はあまり胃洗浄は行われないが、炭酸リチウムは活性炭に吸着しにくいので胃洗浄をする。強制利尿はしない。輸液量は脱水の予防・補正程度で十分である。三環系抗鬱薬中毒にメイロンがよい。治療への抵抗が強い場合は、精神科への移送、sedation、家族が来るのを待つ。再自殺リスクの評価が重要である(自殺企図であることの確認、動機の確認、今回の行動に対する患者の評価)
患者を診察する際にはTALKの原則に則って行う。 Tell(話しかける), Ask(自殺の確認), Listen(傾聴), Keep safe(安全の確保)。
ここで飛び降り自殺事例による実習を行った。「死のうと思って飛び降りた」と語った患者にどう応答するか。「死のうと思って飛び降りた」を医師が復唱して確認すること。語らない患者の場合、誘導して自殺であることを確認する。拒絶的な態度の場合には希死年慮が持続しており再自殺率が高い。その場合、速やかに家族に面会してもらう。ころころ言うことが変わる場合も要注意。
パラ自殺とは、明確な自殺目的ではなく繰り返される自傷行為の総称。粛々と対応。かかりつけ医に手紙を持たせる。
自殺の再発防止のため、死なない約束をする。フレーズ「死にたいくらい辛かったのだ。辛いからといって死なないでください」「あなたの命が生きることを選んだのですよ」。言葉を選ぶ緊張が会場に張り詰める。祈るような気持ちで言えることが大切である。自分の感情に焦点を当てる。患者と適度な距離を保って考える。チームで考える。患者の運に差し戻して祈る。ひとつひとつの言葉の重さを実感する講義であった。(山本和利)