札幌医科大学 地域医療総合医学講座

自分の写真
地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年8月25日水曜日

医の智

 『Medical wisdom and doctoring』(Robert R. Taylor著:Springer 2010年)を読んでみた。著者は米国家庭医療学の大家である。15のテーマで章立てされ、記載されている。

患者ケアの章から抜粋。ユーモアの使用は、患者は60%の医師が使ったと認識しているが、一方医師は38%しか使っていないと報告している。医師の言葉で患者さんが癒されることもあれば、傷つくこともあることを肝に銘じなければならない。医療以外のチョットした話をすることも大事。長く通院する患者では、チョットした話が患者の満足度を上げているそうだ。そんな話の中へ医師自身のことを少し混ぜて話すとさらによいようだ(医師の15%が報告)。患者がどんな病気になったかよりも、病気になったのはどんな患者を知る方が重要である。共感こそが万能薬である。医師の知識や技術がどうあれ、癒しは微笑みから始まる。

コミュニケーションの章。Etiquette-based medicineという言葉で患者や家族に敬意を示しながら行う医療の必要性を訴えている(N Engl J Med 2008;359(19):189-9.)。患者さんと視線の高さを合わすこと。開いた質問をすること。チョットした腹痛を主訴に受診した主婦が子育ての悩みを訴えはじめたら、腹痛は受診のための「入場券」と考える、という考えが大事。第三の耳で聞くこと(病歴として言葉にならないことの方が最も重要なこともある)。医師は自分が話しているときには何も学べない。器質的疾患が見つからないときに「誰でも人生の問題を抱えている。私もそうだ。そうなると体調も悪くなる。何か思い当たることがないかな?」と聞くのも有効である。

診断の章。Think first of horses, not zebras. Don’t forget to think about zebras.
(稀な疾患よりもよくある疾患をはじめに考えなさい。頭の隅に希な疾患も置いておくこと)。まだまだ続く(ここまで100頁)・・・。

 先人たちの知恵が簡潔にテーマに分けて記載されている。箴言は章の終わりにまとまって記載されており、比較的新しい内容は参考文献を挙げて根拠を示しながら記載されている。このようなタイトルの本は買っても積んで置くことが多いが、思った以上に読みやすい本である。時間に余裕のある方は是非一読を。
(山本和利)