『光のほうへ』(トマス・ヴィンターベア監督:デンマーク 2010年)という映画を観た。
社会福祉の行く届いたデンマークの映画である。デンマークには5千人のホームレスがいるそうだ。彼らの多くがアルコール依存症、薬物依存、刑務所からの出所者である。かれらには障害年金として月に26万5千円が支給されるという。映画の中に出てくる彼らが住む家にはステレオや電子レンジ等も備わっている。では彼らが幸せかというとそうではなさそうである。
映画は、アルコール依存症の母親にネグレクトされたまま育てられた二人の兄弟を追って行く。少年時代の唯一の希望が歳の離れた幼い弟である。そして、育児放棄した母親に代わり育児をしている。しかしながら赤ん坊が突然死んでしまう。
そのトラウマを負って、二人の兄弟は成長するが、一人は刑務所に入り、かつアルコール依存症のようであるし、もう一人の弟は最愛の妻を亡くし薬物中毒になりながら一人息子を育てている。
一生懸命に生きようとする二人の人生に希望は見えてこない。アルコールや薬物、暴力、虐待といった問題を抱えた機能不全家族で育った子供が、政府が子供を守ろうと手を尽くしても「負の社会遺産」が引き継がれ、親と同じようなアルコールや薬物、暴力、虐待といった問題を抱えた次世代が形成されてゆく。
原題は「SUBMARINO」であり、その意味は「潜水艦」であるが、それから派生して「水の中に無理矢理頭を沈められるという拷問」を意味するという。社会福祉を充実させただけでは「光のほうへ」は向かわないことは確かである。
パンフレットの中で、世界の、また日本の識者たちが結末の展開に希望を見いだしているが、現実はそう甘くはないのではないか。幸せとは何か、生きるとは何かを深く考えさせられる映画である。(山本和利)