『なぜ経済予測は間違えるのか? 科学で問い直す経済学』(デイヴィド・オレル著、河出書房新社、2011年)を読んでみた。
著者は英国在住の複雑系を専門に研究している応用数学者。
新古典派の経済学は、統一、安定、対称といった古代ギリシャ時代以来の西洋の学問の特徴となるものに基づいている。経済は不公平で不安定で持続不可能なものだ、と著者はいう。そして経済学の理論には、いずれの問題点も処理する手段がない。
経済を数学で表せると思ってはいけない。ニュートンの万有引力の法則に相当するのが、「需要と供給の法則」である。ニュートン力学の出てくる原子のようには人は行動せず、互いの行動に作用し合っている(群衆行動)。「見えざる手」は信用できない。投資としての価値から資産を考えるとこれが当てはまらなくなる(原油価格や住宅価格)。
金融市場の暴落はフラクタルなパターンを示す。企業の規模も同様である。パレートの80-20則は、富がフラクタルに並ぶことをいうものだ。複雑性の理論では、効率と堅牢性とが相反する関係にある。カオス的体制では、系は制御できないほど揺らぐ。安定した体制では変化は小さく正規分布に従う。そして自己組織化臨界状態に向かう。この状態は、ぎりぎりまで効率をあげるという意味ではきわめて効率的だが、極端なゆらぎを生じやすいので堅牢ではない。
世界経済は極めて非対称的であり、「成長し続ける」という誤解がある。社会的規範から市場的規範に移るのは易しいが、元に戻るのは難しい(保育園のお迎え時間に遅刻した場合に罰金を科すと、平気で遅刻するようになり、その後無罰にしても遅刻は減らなくなる)。効率では割り切れない。従来の経済学は、人は極めて合理的で感情がないものと仮定している。しかしながら人は合理的に意思決定をしない。さらに集団は個人よりも危ない橋を渡りやすい(リスクシフト)。統計学者も多数の標本がなくても結論に飛びつき、直感に頼りやすい。
金持ちしか儲からない世界を変える必要がある。解決策として、複雑系の理論を取り入れた新たな経済理論を構築することと、物欲を規制するような制度の整備を上げている(新規金融商品の販売をきちんと規制すること、短期的な儲けを増やすがいずれは破綻するような賭けをしたくなるようなインセンティブを減らすこと)。
人が合理的に考えて行動するという間違った前提で理論を構築しても、富める者の擁護にしかならないということであろう。(山本和利)