『肥満と飢餓 世界フード・ビジネスの不幸のシステム』(ダジ・パテル著、作品社、2010年)を読んでみた。著者は、世界貿易機関や世界銀行に勤務した経験を持ちながら、現場に赴き、当事者として相手の主張に耳を傾け、その学びと考察を膨大な資料を渉猟しながら実践に活かしているという。
各章からの抜粋。
10億人が飢えに苦しみ、10億人が肥満に苦しむ。これは同一の問題から派生している現象である。これらはシステムが生みだしている。貧しい人々は質の高い食品を手に入れることができない。農民が何を作るか、消費者が何を食べるかを自由に選択できないシステムなのである。例えば、農民が1キロ14セントで売ったコーヒー豆が、焙煎された後には26ドル40セントになっている現実がある。世界を見渡してもわずかな企業(20社)だけがコーヒーの売買に携わっている(生産者と消費者が多数いて、中間の企業が少ない。これをボトルネック状態という)。
現在のインドは「シャイニング・インディア」と言われる一方で、農民の借金苦による自殺または腎臓販売が後を絶たない。農民の言葉:「私たちには腎臓以外に売るモノがない」。低賃金雇用が低下している。韓国でイ・キョンヘ(農業改革のシンボル)の自殺。
「神の見えざる手は、常に見えざる拳を伴う」(自由選択には暴力が付きまとう、ということか)。北米自由貿易協定(NAFTA)が農業貿易も対象にしたため、メキシコ農民は米国の農業センターとの競争に追い込まれた。農村は不安定化し、若者が都市や海外に出て行ってしまい、農村が高齢化している。
フード・ビジネスが市場を動かし、政府を支配する。スーパーマーケットが消費と生産を支配する。常にバーコードでモニターされる消費者。農薬、遺伝子組み換え作物、大学・研究機関を操作している。飢餓に対して食料援助が行われた多くの国々では、十分な量の食料はあったが、分配の仕組みがなかった。
多くの食物に汎用されるレシチンは大豆から作られる。ブラジルの大豆プランテーションにより、森林は破壊され、先住民は土地を奪われ、農民は奴隷化されている。
フード・システム変革のための10の取り組み
1. 私たちの味覚を変える
2. 地元の食材を旬に食べる
3. 農業生態系を保全する食べ方を実践する
4. 地域の人々による事業を支援する
5. すべての労働者には尊厳を持つ権利がある
6. 抜本的・包括的な農村改革
7. すべての人に生活賃金を保障する
8. 持続可能な食のあり方を支援する
9. フード・システムからボトルネックを取り除く
10. 過去・現在に存在する不正義の責任を自覚し、その償いをする
本書は次の言葉で終わっている。「今こそ、組織化し、教育し、食を楽しみ、食を取り戻し、新たなフード・システムを生み出すときである。」
医療の世界では肥満に対してメタボ対策などを打ち出しているが、根幹にある食システムを変えずに対策を練っても空しいだけではないのか。(山本和利)