『音楽嗜好症』(オリヴァー・サックス著、早川書房、2010年)を読んでみた。
神経学・精神医学教授で開業医として活躍するオリヴァー・サックスがまたまたユニークな本を出した。これまでパーキンソン病を扱った『レナードの朝』やユニークな神経疾患を紹介した『妻を帽子と間違えた男』等、10冊近く出版している。
本書では、音楽と神経疾患との関係を出会った患者さんや手紙をもらった事例、文献などを引用に紹介している。突然音楽が聞こえるようになった患者、特定の音楽で誘発される癲癇発作、「音楽の幻聴が聞こえる」患者を紹介。音楽幻聴には難聴と関係が強いらしい。セロクエルやガバペンで治療に成功した例があるそうだ。
知的障害がある一方で音楽的才能がすばらしい音楽サヴァン症候群や病的に音楽好きなウイリアムズ症候群についてこの本ではじめて知った。
視覚障害があると音楽能力が高まる話やその考察も興味深い。音楽に色がついていると認識してしまう感覚(共感覚)を持つ事例も紹介されている。音階ごとにそれぞれに色が付いている人や音階に味がついている人もいるようだ。
最終章は「認知症と音楽療法」である。馴染みのある音楽を聞かせることによって不眠や問題行動が減少する事例を紹介している。
オリヴァー・サックスの本を読むといつも「人間って不思議だ」「世の中には様々な症状を持つ人が沢山いるのだ」という気持ちにさせられる。日常診療の中で、患者さんの訴えを真摯に受け止めなければならないと改めて思った次第である。(山本和利)