7月30日、東京の都市センタで開催された「第42回日本医学教育学会大会」に参加した。北村聖先生、大滝純司先生の司会のもとで行ったシンポジウムで山本和利は「地域枠・地域医療教育の観点から」の講演を行った。要旨は以下のとおりである。
現在、研修医の半数が地方から都市部に流出しその偏在を招いている。その対応策として各地の大学で地域推薦学生枠を持つようになった。その数は61あり学生数は1,000名を越えている。海外の報告では医学生に対する地域医療教育は有効であるとされている。実習を通じて、ロールモデルとなる医師に接して多様なニーズを発見し、地域医療に必要な知識を獲得しているという。地域推薦学生にとって実習は不安を和らげ、初心を再認識させ、将来に向けての学習目標を設定できるようにするなどの利点があろう。入学早期よりへき地医療実習を通して将来のロールモデルを見せ、仲間意識を醸成し、切れ目なく相談できる体制づくりをすることが重要である。さらに、地元住民との交流を増やし、実習時間に余裕を持たせ、多くの医療機関を計画に入れ、終了時に報告会を行ない、知事との面談をするなどの工夫も必要である。
一方で、地域推薦学生増に伴う実習の場の不足と地元の負担増が懸念される。また地域枠制度は教員の負担が重くなる。このような問題を解決できないでいると、初期研修終了直後に違約金を払って離脱する者が多く出ないかという懸念もある。
今後の課題として、1)地域枠学生を誰がどのように支援をしてゆくのか、2)キャリアパスをどうするか、3)離島・へき地実習をどう組み入れるのか、4)お互いの顔の見える関係をどう構築するか、等が挙げられる。
地域枠学生は大学の中では少数派なので特別な教育が必要と考えている大学が多い。一方で、「どのような診療科に進もうともプライマリ・ケア能力を研修2年間終了までに全ての学生に修得させるべきである」という意見もある。地域枠学生の「専門医と総合医の養成比率をどうするのか」も大きな問題である。
「地域を支える総合医・家庭医を養成することが重要であるが、紋切り型の答えを用意しない。」「単なる医局人事に終わらせない。」「義務ではなく、地域にゆくと楽しいことがあるのだ。」という方向性を示すことが重要と思われる。
講演の中で、札幌医大1,2,5,6年生の実習の具体的な内容を紹介した。(山本和利)