初診外来には様々な患者さんが訪れる。例えば、肝機能障害に効く胆汁排出促進薬を希望する痩せの著しい男性。PSA高値で定期的経過観察を泌尿器科でうけていて、2週間前からの便秘を契機に意欲が消失し、うつ病、認知症を心配した夫人が同伴して受診した高齢男性。感冒症状に抗菌薬を数日内服しては解熱・発熱を繰り返す中年女性(心雑音聴取)、等々。
診断力の向上を図るため、『ティアニー先生の診断入門』(ローレンス・ティアニー著:医学書院 2008年)と『診断力強化トレーニング』(松村理司・酒見英太編:医学書院 2008年)を読んでみた。京都GIMカンファランスには私も京大時代しばらく参加していたので懐かしい。
『ティアニー先生の診断入門』:診断は患者と出会って数秒でなしえるし、最初の出会いの30秒間が最も豊かな瞬間であるそうだ。入院患者では患者の身の回りに置かれている物にも注目(手紙、写真、絵、等)する。診断で最も重要な要素3つとは、病歴、病歴、病歴である(それだけ病歴が重要ということである)。
系統的な鑑別診断を挙げるときに見落とさないためには、11のカテゴリー(Vascular, Infection, Neoplastic, Autoimmune, Toxic, Metabolic, Trauma, Degenerative, Congenital, Iatrogenic, Idiopathic )が有用である。
診断における重要な考え方。オッカムのかみそり(Occam’s Razor)「一つの原因は観察されるすべての事象の源である」とヒッカムの格言(Hickham’s dictum)「どの患者も偶然に複数の疾患に罹患しうる」。50歳以下の患者にはオッカムのかみそりを、50歳以上の患者にはヒッカムの格言を適用する。患者自身の説明モデルを聞きだすことは診断にも重要である。その後、10のclinical pearlsが記載され、12のケースの診断の進行が記されている。身につくようにもう一度読んでみよう。
『診断力強化トレーニング』:50ケースが提示されているが、どれも診断するのは難しい。救急外来、一般外来、紹介外来の3分門に分かれている。症例呈示後、次ページに診断名が出され、その後に手がかり(Clues)、目くらまし(Red Herring)、決め手(Clincher)が、最後にclinical pearlsが書かれている。本文の実際の経過を読んでゆくと、必ずしもすぐに診断がついた訳ではなく、迷って試行錯誤している姿が見えてくる。一度ざーと目を通すだけでなく、手元に置いて何度も考えながら読みたい本である。(山本和利)