札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2010年7月2日金曜日

行動経済学

『行動経済学』(依田高典著:中公新書 2010年)を読んでみた。不確実性に興味をもって研究されている京都大学教授が経済学の視点でコンパクトにまとめている。不確実性・曖昧さに興味のある者には大変参考になる本であろう。
伝統的な経済学が想定する人間像は「超合理的な存在(ホモエコノミックス)」である。意思決定にさいして完全な情報を有し、完全な計算能力を持ち、自分の満足(効用)を最大化できると仮定されている。主流派経済学の理論は、実際とかけ離れたこのような仮定に立っていることが問題であり、人間の合理性には限界がある(限定合理性)ことを認めて経済を考えようというのが行動経済学と言えよう。
修正点を要約すると、1)選択肢の発見に時間と費用がかかる、2)結果の確率は主観的に評価される、3)効用は結果だけでなく、過程からも影響を受ける、4)選択肢の決定は効用最大化ではなく、満足化によって決められる(結局、人間は理論や計算通りには行動しない!、ということ)。
医療においては、なぜ誤診をするのかといった面で参考になるだろう。その説明として、直観的な意思決定としてヒューリスティクス(近道思考)がある。1)代表性ヒューリスティクス、2)想起しやすさヒューリスティクス、3)係留ヒューリスティクス、である。
診断において医療ではベイズの定理が有名だが、実際には学歴の高い医師であっても確率判断においてベイズの定理に従わないと言われている(検査前確率が低くとも、陽性の検査結果をみて、病気と判断してしまう、等)。そのため、「失敗学のすすめ」(畑村洋太郎)が注目されている。
決断分析に興味のある者には、第3章の不確実下の選択、第5章のゲーム理論と利他性が参考になろう。実際の人間行動は、ゲーム理論で仮定したよりも協力的であり、結果が予想から乖離してゆくようである。また、「正義論」書いたジョン・ロールズが取り上げられている。最も不遇な立場にある人々の利益が最大になるように不平等回避すべきである、と。「他者の目的や境遇に共感を抱き、コミットメントを行うような資質を人間に対して想定し、社会的弱者でも潜在能力を発揮し、社会参加すべきであることを主張した」アマルティア・センも取り上げられている。経済学はこのレベルにまだ追い付いていないらしい。では現在の日本の医療はどうなのか?考えさせられた。(山本和利)