日本と中国の間で尖閣列島の問題などを切っ掛けに再び不穏な空気が漂っている。そんな中、中国の高学歴フリーター集団を扱った『蟻族 高学歴ワーキングプアたちの群れ』(廉 思著、勉誠出版、2010年)を読んでみた。
前半は学術論文形式で、後半が蟻族と称される若者の書いた生きざまが記されている。本書は中国国内では十回近く版を重ね、「蟻族」の名が響き渡る切っ掛けとなったという。高学歴ワーキングプアたちの群れを「蟻」に見立てて論文を書いているところが興味深い。研究の立ち上げからの経緯が記されており、社会学の論文が出来上がってゆく様を俯瞰できる。
「蟻族」の特徴は3つ、大学を出ている、所得が低い、一か所に集まって暮らしている、である。著者らがその所在地によって「京蟻(ジンイー)」(北京の場合)などと略称で呼んでいるのも面白い。発生原因をマクロとミクロの視点から、心理状態、性・恋愛・結婚、所得状況、職業、教育状況、インターネット、集団行動の傾向、等について分析している。
後半の「蟻族」の一人ひとりのレポートを読むと、仕事がなく悶々とする日々の鬱屈がヒシヒシと伝わってくる。日本の就職で苦しむ若者たちも同じような状況なのであろう。
翻って、場所とポジションさえ気にしなければ生きていける医師の気楽さに申し訳なさも感じた。学術論文とドキュメンタリーの両方が一冊で楽しめる良書である。(山本和利)