『極北クレーマー』(海堂尊著、朝日新聞出版、2009年)を読んでみた。
北海道の地域医療を扱っている。一般病院や地域医療の現場に詳しい者にとっては、「極北市民病院」の職員の待遇・勤務態度等が現実にはありえないほどひどい設定なので、はじめはあきれるかもしれない。この「極北市民病院」は、札幌から車で1時間であること、市長の放漫経営により巨大な累積赤字を抱えて財政破綻したこと、病院の救世主として有名医師が乗り込んでくること等を勘案すると、夕張市立病院がモデルになっていると思われる。また、福島県で起きた産婦人科の医療事故の問題をその中に入れ込んで、かなりのスペースを割いている。医療事故に関して個人の問題と矮小化せず、関係者全体で取り組まなければならないという姿勢は高く評価したい。また『日本医療業務機能評価機構』の在り方について、痛烈に厚生労働省の天下り体質を批判した書でもある。
著者は、最終ページでこの病院に関わった者たちの顛末を皮肉っぽく書き連ねてゆく。「救世主の記者会見は果てしなく続き、終わりそうにない。・・・」「救世主」が乗り込んできて「極北市民病院」は再生したのか。そこに答えは書かれていない。(山本和利)