『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』(中村哲著:岩波書店 2010年)を読んでみた。聞き手澤地久枝さんが中村氏の活動に共鳴し、2008年8月11日にやっと捕まえて実現した対談集である。
アフガンとの出会いは、志半ばで倒れた友人と昆虫好きがこうじて「運命、さだめ」であったと答えている。赴任時の目標は、山村部無医地区の診療モデルの確立、ハンセン氏病の根絶を柱に、貧困層を対象にした診療とある。本書を読んではじめて、中村氏が火野葦平(『花と龍』の著者)の甥で、父親は大正期の社会主義者であると知った。精神神経科専攻ということも知らなかった。内村鑑三の『後世への最大遺物』を今も後輩に勧めているという。
家族と一緒にアフガンに赴任したり、10歳の息子さんを亡くしたりと辛苦をなめている。
アフガンと関わる中で「10の診療所よりも1つの水路を」と方略を転換し、道具も聴診器を起重機に代えてゆく。水さえあればアフガンは変わるという信念が荒廃した大地を緑豊かに農耕地に変えてゆき、住民が戻ってくる。女の人の水くみの重労働が軽減される。
おひさまと一緒に起きて、働けるときまで働いて、明日の予定を立てて8時ころには寝る。現地にいると心安らか、という言葉に、今の自身自身を重ね合わせて、言葉も出ない。
『人は愛するに足り、真心は信ずるに足る』という言葉が、本書を読むと胸に突き刺さる。
私にとっての運命、さだめは何なのか、模索が続く。(山本和利)