症例検討として、『以前から「心不全」にて近医かかりつけの84歳女性が「誤嚥」による酸素低下を主訴に紹介された』事例を提示。
事例は、9年前に食道早期がんで内視鏡手術を受けている。その後、胸やけが頻度が増えた。喀痰量が増え、急に呼吸困難を訴えた。顔面蒼白。酸素飽和度60%。サクションで食物残渣が引けた。少し落ち着いたところで救急搬送された。
ここで徳田安春先生が登場。学生、研修に訊きながら話を進めてゆく。まず発症形式のacute, subacute, chronicの違いを説明。これだけの病歴から鑑別診断をあげてゆく。研修医から、心不全、気胸、誤嚥、肺塞栓、解離性大動脈瘤、等を引きだす。
既往歴に甲状腺機能低下、心臓ペースメーカー挿入、圧迫骨折があることがわかる。
その他の徴候として、嘔気、嘔吐、血便、むぜ、動悸、背部痛、等はなし。3%の体重減少あり。薬剤の内服あり。7種類。ここまでに1時間ほど時間をかける。
#1 sudden onset dyspnea ; hypoxia(SaO2↓)、#2 heartburn、#3 weight loss、#4 pacing for AVB、#5 hypothyroidism、#6 post EMR for esophageal ca
の問題リストが作成された。
詳細は身体所見が提示された。意識清明、150cm,41kg,BP;150/80mmHg,HR;97/m,RR:22/m ,JVP;8cm, 両側頸部にbruit聴取、気管支が右に偏移、左肺野holo crackle聴取、収縮期雑音5/6、右鎖骨に放散。心尖部に収縮期雑音あり、slow pitting edemaあり。
心雑音を中心に、心臓疾患における所見を開陳。疾患を大動脈狭窄症に絞り込んでゆく。
次に行った検査所見を供覧(XP,ECG,BNP,Dダイマー)
主治医の問題リストは#1誤嚥、#2心不全、#3CEA高値としたそうだ。初診時にASによる心不全を考えていたそうだ。前医からの依頼はCEA高値の精査であったためそれへの対応を考えているうちに、高熱が出現し、抗菌薬を開始した。呼吸困難出現し、XP上肺水腫。心エコーで高度ASが判明。重症AS+肺炎治療後、胸部外科へ紹介。
病歴と身体所見だけで疾患を考える濃厚な2時間であった。
そのあと、「救急における身体疾患」というミニ講義が行われた。
労作性呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、脈圧が小さい。末梢が冷たい。遅脈+。右の鎖骨に放散する収縮期雑音、等のASについて、最新のエビデンスを交えた知識を述べられた。
97歳男性の肺炎例を出され、老人の体温が37度以下であっても発熱と判断すべきあること、悪寒戦慄1回は肺炎球菌に特徴的であると教えられた(ちなみにこの事例は日野原重明先生のエピソードであった)。
肺野のcrackleの出現時相によって、鑑別ができると説明。
Early inspiratory crackle:気管支炎
Late inspiratory crackle:間質性肺炎、早期心不全、異型肺炎
Hole inspiratory crackle;心不全、肺炎、
COPDの身体所見、口窄め呼吸、気管短縮、呼吸筋の発達、等を説明。「COPD患者にばち状指を見たら肺がんを考えて、CT検索が必要である」とティアニー先生のクリニカル・パールを紹介された。
高PCO2血症の身体所見として、手のぬくもり、Flapping、傾眠、冷汗・乳頭浮腫、昏睡がある。なぜそうなるかを病態から説明された。
あっという間に予定の2時間半が過ぎてしまった。同様の講義が翌日の午前中も開催される。病歴・身体所見だけからこれだけ時間を使って教えることができるとは驚きである。久しぶりに味わったプロフェッショナルの講義であった。(山本和利)