各論では総論で学んだやり方をもとに実際の症例をもとに診断を進める作業をしてもらうことにしている。
用意した主訴は 呼吸困難・失神・胸痛・腹痛・頭痛・意識障害・背部痛。
当講座の助教3人で分担し担当した。
どの講義も総論の講義の大枠を外さないよう事前にチェックし、また、総論の知識+αの知識を随所に織り交ぜて、講義が進むごとに徐々に知識技量が上がっていくよう配慮した。
松浦が担当したのは呼吸困難・失神・胸痛の患者である。
呼吸困難の患者は典型的な心不全患者で、問診と身体診察からほとんど確定診断できるような患者設定とした。
学生諸君は前日に習った診断学的手法を用い、的確に質問し、身体診察を行い診断にたどり着いていく。総論の授業ではどんでん返しがあったが、今回はそういうこともなくあっさりと診断にたどり着いた。拍子抜けしたようであるが、自信をつけさせるのにはいい講義であったと思う。
もちろん、鑑別の挙げ方や心不全患者の診断と除外に有益な所見の違いなど、抑えるべきポイントはしっかりと強調した。
翌日の講義では失神患者の診断を行ってもらった。
これまで、主訴から鑑別診断を挙げる方法として、「A・Bアプローチ」という解剖と病態から疾患を想起する方法を提示していたのだが、今回はあえてそれが使いにくい主訴としてみた。
案の定、学生諸君は困っている。
そう、診断学には、ある程度の定石はあるが、すべてに通用する魔法の杖はないのである。
主訴ごとにより使いやすいアプローチ方法を知っていないと、診断にたどり着けない。
そのアプローチには、事前確率が大変重要になってくるのである。
「本質的に稀な原因は実際稀にしか起きない。」
稀な疾患を最初の鑑別に挙げてしまうと、診断に至るまでにずいぶんと回り道をしてしまう。その間に失われる時間は患者にとってはまさに命の時間である。
「失神患者の原因は、それが本当に失神であるなら、ほとんどが心疾患である」
脳梗塞や脳出血を鑑別の最初に挙げていた学生諸君はこれまた面食らったようである。
脳梗塞や脳出血では、片側の病巣であることがほとんどで、片側の脳卒中では意識を失うことはない。両側の脳卒中に陥らない限り意識は消失しないのである。
これまでにやった診断学の基本と基本+αの知識を織り交ぜながら、講義を進めていく。
時に基本通り、時に+αの知識を必要とするという構成にして、基本事項を何度も繰り返させることで、回を重ねるごとに徐々に身につけさせていくことができる。「基本上塗り方式」である。
結局この患者さんは前回の講義で診断した、心不全症状があり、それをきちんと指摘することができれば、心室頻拍による失神と診断できるような構成とした。
今回は学生さんにとってはかなり難しいとっつきにくい診断推論となったようだが、講義の随所で、「現場で役に立つ知識」と「その調べ方」を紹介している。今後の臨床実習や、研修医となった暁にはぜひ臨床現場でそのやり方を思い出してほしい。
この講義は知識だけを与えているのではない。知識の獲得方法を教えているのである。
(助教 松浦武志)