『「ぐずぐず」の理由』(鷲田清一著、角川学芸出版、2011年)を読んでみた。
著者は哲学者。大阪大学総長を務め、現在は大谷大学教授。
オノマトペ(擬態語)についての考察である。オノマトペの場合、観察描写を行い、概念によってではなく、感覚によってなされるところが特異なところである。魂に触れるところでオノマトペが声を上げる。
最初は「ぎりぎり」の考察。追い詰められて、煮詰まって、崩壊寸前に吐く言葉。さらに「ぎ」という音の考察。何か無理がかかったときに発生する音である。「ぎしぎし」「ぎゅうぎゅう」「ぎすぎす」・・・。なるほど。
ザ行のオノマトペには、身体が何かと摩擦を引き起こすだけでなく、体がぎしぎし軋むときのその感触を伝える。「ざらざら」「ずるずる」「ぞくぞく」・・・。
「ぐずぐず」は、身を引き裂かれる思いにさらされながら、いつまでも決心がつかない、宙ぶらりんのだれた姿。
「やれやれ」「よいしょ」「どっこいしょ」は感動詞。ふるまいや行動に反動をつける。オノマトペはそうした身体の振る舞いから隔たりをとるものである。
その後、「な行」「は行」「が行」等で始まるオノナトペについての詳細な記述が100ページ近く続く。雑誌に29回にわたって連載されたものをまとめたということなので、詳細な記述になったのであろう。言葉に興味を持つ者や文学関係者にとっては貴重な資料となろうが、それ以外の一読者には斜め読みも仕方ないかとも思う。
最後に、著者は「哲学書をオノマトペで書けたらいいな」と結んでいる。是非、執筆してほしい。本書を読んで、日常の会話の中にもっとオノマトペを入れなければと思い至った。(山本和利)