『春を恨んだりはしない 震災をめぐって考えたこと』(池澤夏樹著、中央公論新社、2011年)を読んでみた。被災地の写真とともに著者の言葉が綴られている。
日本のメディアは、震災被害者の遺体はそこにあったにもかかわらず、その遺体を写さなかった。著者は被災地に赴いて、「今も、これからも、我々の背後には死者たちがいる。これらすべてを忘れないこと。」を誓う。
人は生きて暮らすうちに、いろいろなものに出会う。自然は人間に対して無関心だ。自然は時に不幸を配布する。自然には現在しかない。人間はすべての過去を言葉の形で心の内に持ったまま今を生きる。大きな出会いは「運命」として受け取られる。
震災を契機に、日本の今後の行く道を思考している。「昔、原発というものがあった」という時代を迎えたいと主張している。その実現に向けて政治が着実に動くことを期待している。まさに同感である。(山本和利)