11月15日、幌加内町国民健康保険病院の森崎龍郎先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「北海道のへき地医療 幌加内での医療と生活」である。
まず、自己紹介をされた。横浜生まれ。富山医科薬科大学卒。漢方医。2010年幌加内町国民健康保険病院に赴任。幌加内町の紹介。3つの日本一。そばの作付面積、日本最大の人造湖(朱鞠内湖:ワカサギ釣りができる)、最寒記録-41.2℃(霧氷が見える,雪も多い)。人口1,650人、世帯数844(町として最小数、人口密度が最低)。過疎の町で高齢者が多い(高齢化率35%)。小学校3年生は8名で全員女子。病院の紹介。町内唯一の医療機関。医療療養13床、介護療養29床。建て替えの予定は宙に浮いている。平均入院患者28.6名。平均外来患者数31.3名。常勤医師1名、非常勤医師1名、職員数32名。
日々の診療。外来:超音波、内視鏡検査。訪問診療。入院;回診、病棟業務。病棟管理。予防医学。保健福祉医療連携。産業医。
入院病棟:在宅生活が困難な方。脊椎損傷の方。認知症の方。脳卒中後遺症による胃瘻造設者。末期がん患者。骨折、火傷の方。
外来診療:高血圧、糖尿病、高脂血症。OA.認知症など。慢性疾患が複数組み合わさった患者が多い。それに急性疾患が加わる。事例を提示。
上気道炎、下痢、小児の肺炎(マイコプラズマ肺炎)。60歳代女性の右臀部痛→帯状疱疹。マダニ咬傷。ライム病。
当直:自宅待機である。2週に1件の救急車。事例提示。関節脱臼。大腿骨骨幹部骨折。結膜浮腫。アキレス腱断裂s(Simmons test)。
プライマリ・ケア医の役割
1.まずはすべてに対応する。
2.自分のできることをする。シンプルに。スーパードクターである必要はない。生涯学習をしようという姿勢が重要である。
道北ドクターヘリ事業:旭川日赤病院が基地。1年半で4回要請している(交通事故、脳卒中)。悪天候、夜間の対応が問題。
在宅医療:老々介護。認知症同士の介護。カバーする地域の範囲が広すぎる。冬期間の厳しさ(雪はねが大変)。介護スタッフ不足。
出張診療所;4つの診療所。公民館の一部を借りているところもある。
保健福祉総合センター(アルク):ディサービス、居住部門、老人福祉寮。地域ケア会議の紹介。
予防接種事業:未就学児の任意予防接種をすべて全額助成。中学生女子の子宮頚がんワクチン全額補助。インフルエンザワクチンは中学生無料、町民は千円、高齢者の肺炎球菌ワクチン助成。保育園健診。産業医活動(禁煙)。
ここで「地域医療とは?」いろいろなところで使われる。使う側、受け取る側で意味が違っていることが多い。
プライマリ・ケアの定義
事例。9歳男児。体にブツブツ。水痘。1週間後の運動会に参加できるか。ワクチンの緊急接種ができる。抗ウイルス薬で対応。自宅安静。登校停止。
半年後、父親が来院。40度の発熱、咳。肺炎を疑い胸部Xp,血液検査。XPで肺炎像あり、抗菌薬を処方。
83歳男性。検査実施したところ、大球性貧血、血小板減少が判明。専門医に紹介したところ、MDSであった。半年後、後ろ向きで倒れた。入院時、意識清明。てんかんを疑った。専門医で治療が開始された。幌加内で定期輸血を開始した。右第2,3指の壊死(喫煙中にてんかん発作を起こした。)
プライマリ・ケア医の役割
・日常診療に対応。
・こども、父親、家族も診ている。
・生活背景を知っている。
・アクセスしやすい。
・地域の健康にも関与。
・必要なときには専門医に任せる。
・各専門科の問題を統合して対応。
・これまでの経過を知っている。
・見知った医師がすべてを知っている
最後まで責任を持つ。
講義の途中に、幌加内そば打たん会、野菜作り、山菜取り、スキー、ワカサギ釣り等、田舎の生活の魅力を紹介してくれた。
医者も地域で暮らしている。
・地域の人が支えてくれる。
・こどもは地域に溶け込むきっかけになる。
・プライバシーがないが、守られている。
・お互いの気遣いがある。
・職住一致
3年半年経って感じること:患者さんの顔が見える。保健・福祉・救急の連携がスムース。旭川市が比較的近いので助かっている(高度医療・専門医のありがたみがよくわかる)。外傷が多い。人材不足(医師、看護師、介護士、ヘルパー、給食婦、等)。高齢者の生活(冬をどう過ごすか)。意外と子供が多い。いろいろなことに関わることができる。シンプルに、コンパクトに地域医療を経験することができる。若いうちに是非、経験を!
ホンワカとした雰囲気の中で家族と一緒に地域で暮らす楽しさを伝えてくれた。(山本和利)