『デニーロ・ゲーム』(ラウィ・ハージ著、白水社、2011年)を読んでみた。
著者は、ベイルート生まれ。レバノン内戦下のベイルートとキプロスで育つ。カナダに移住。写真家でもある。この経歴から推測すると、本文の内容は著者の自伝に近いのではないかと思わせるところがある。
主人公の青年と「デニーロ」と呼ばれる幼馴染との暴力と犯罪を繰り返す日々が綴られている。戦時下にあって徐々に、主人公は犯罪や殺戮にのめり込んでゆく。「デニーロ」とは、ロバート・デニーロが主演した映画『ディア・ハンター』に由来する。兵士が集まって、回転式の銃に弾を一発だけ残して、自分自身の頭に向けて順番に引き金を引くゲームである。実際に戦時下のベイルートでは多くの若者がこれを真似て命を落としたという。
非常にスピード感がある文章であり、犯罪も殺戮の場面も次々に展開してゆく。組織から受ける拷問、国外逃亡へと続いてゆく。最後の最後で、タイトルの『デニーロ・ゲーム』が活きてくる。
TVやゲームの映像では伝わらないであろう戦時下での荒んだ兵士の心理が描き出されている。一歩離れた日本のような場所にいて、ただ戦争反対とだけ唱えていればいいことなのか、考えさせられる。(山本和利)