日常診療で「風邪」と診断することは多いが、医学部でそれを系統的に教えることは少ない。その「風邪」について系統的に、日常診療に沿ってまとめた本が出版された。岸田直樹著『風邪の診かた』(2012年)医学書院、である。
風邪を定義すると、「ほとんどの場合、自然寛解するウイルス感染症で、多くは咳、鼻汁、咽頭痛といった多症状を呈するウイルス性上気道炎のこと
」。そのとき、「ウイルス感染症 」は、多領域に及ぶ感染の症状 を引き起こし、「細菌感染症 」は単一の臓器に1種類の菌が感染
するという原則を覚えておくと参考になろう。
} 咳、鼻汁、咽頭痛の3領域に注目する
◦ Step1 典型的風邪型
◦ Step2 3症状のどれが主か
1.鼻症状
2.喉症状
3.咳症状
◦ Step3 細菌感染症との区別
細菌性副鼻腔炎
A群溶連菌咽頭炎、扁桃周囲膿瘍、急性咽頭蓋炎
細菌性肺炎
■鼻症状が主な場合
アレルギー性鼻炎
朝方にくしゃみ、鼻水がでる
季節性の経過
視診で鼻粘膜が蒼白
細菌性副鼻腔炎:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ・カタラーリス
がほとんどである。
症状が二峰性
片側の頬部痛
うつむいたときの頬部痛
上歯痛
鼻汁色調の変化
膿性鼻汁
坑アレルギー薬に反応が悪い
治療を考慮する場合
片側の頬部痛、腫脹、発赤
7日以上症状が続く(発熱、痛み)
◦ 要注意
糖尿病患者:ムコール
好中球減少症:アスペルギルス、ムコール
◦ 治療:サワシシン、+オーグメンチン
UpToDateを読んでも、抗菌薬を使用しなければならない状況は、思った以上に少ない。
■喉症状が主な場合
Five
killer sore throatsを見逃さないこと。
急性喉頭蓋炎
扁桃周囲膿瘍
咽後膿瘍
Ludwiingアンギナ (口腔の蜂窩織炎)
Lemierre症候群 (感染性血栓性頸静脈炎)
嚥下痛がないときは要注意!
心筋梗塞、大動脈解離、
亜急性甲状腺炎:TSH, ESR
Centorの診断基準 (これを知らないと総合診療医と言えない)
38℃以上の発熱、圧痛を伴うリンパ節腫脹,白苔、咳なし
伝染性単核症
VCA-IgM,
CMV-IgM で確定。
「喉頭違和感 」患者も少なくない。
■咳症状が主な場合
肺炎を疑う病歴は、 「悪寒戦慄を伴う発熱+咳
」と「二峰性の症状」
胸部Xpの感度は100%ではない 。7%で初期の肺炎ははっきりしない。 インフルエンザ、結核 を忘れないこと!
■咳が長期間続く場合
気管支炎後症候群
後鼻漏
結核
咳喘息
逆流性食道炎
百日咳
ACE阻害薬
肺がん
を鑑別する。
■高熱型の場合
- 急性腎盂腎炎
- 急性前立腺炎
- 肝膿瘍
- 化膿性胆管炎
- 感染性心内膜炎
- ケテーテル関連血流感染症
- 蜂窩織炎
- カンピロバクター腸炎の初期
- 師髄炎
- 肛門周囲膿瘍
- その他:敗血症
■微熱+倦怠感型
これをきたす二大疾患は急性肝炎
と急性心筋炎 !倦怠感が著しい場合、心音を聴取をすること。
非感染疾患
- 無痛性甲状腺炎
- PMR
- 悪性腫瘍
感染症
- 結核
- 感染性心内膜炎
- CMV mononucleosis
■発熱+頭痛型の場合
最初、ウイルスは後回しにして考える
。SLE 、Behcet病、 サルコイドーシス 、繰り返す髄膜炎 等を念頭に置く。
感染性
では、
・硬膜外膿瘍
・細菌性髄膜炎
・細菌性心内膜炎
・(結核)
・(HIV髄膜炎)
■発熱+胃腸症状の場合
胃腸炎
と診断するには、「38℃以上の発熱 」「6回以上の下痢 」「腹痛
」の条件を満たすこと。安易に胃腸炎と診断すると、「胃腸炎に紛れた疾患 」を見逃しかねない。
胃腸炎に紛れた疾患
- 虫垂炎
- 心筋梗塞
- 糖尿病性ケトアシドーシス
- 消化管出血
- 脳血管障害
■発熱+関節痛の場合
ウイルス感染
パルボウイルス
風疹
化膿性関節炎 では、淋菌性 または反応性
を考慮する。
高齢者の多関節炎 では
- 痛風/偽通報
- 細菌性;A群溶連菌
- 肺がん
■発熱+皮疹型の場合
重要なのは流行りと接触歴
多形滲出性紅斑 では
- マイコプラズマ感染源、単純ヘルオエスウイルス
- アデノウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、コクサッキーウイウス、パルボウイルス、HIV、サルモネラ、結核、梅毒
- 薬剤;NSAIDs、抗けいれん薬、抗菌薬
結節性紅斑 では、連鎖球菌感染 、薬剤性
、原因不明 、その他;避妊薬、SLE,HIV,梅毒
■発熱+頸部痛型
- 伝染性単核症
- 菊池病
- 悪性リンパ腫
- 結核
- サルコイドーシス
- その他
最悪な感染症
は、「深頸部感染症 」「髄膜炎 」「骨髄炎 」「硬膜外膿瘍 」
「風邪」といっても勉強すると奥が深い。緊張して日常診療に臨まなければと気持ちを新たにした。(山本和利)