肺炎にステロイドは有効であろうか? それに応えてくれそうな論文を読んでみた。
Sabine C A Meijvis, Hans Hardeman, et.al Dexamethasone and length of hospital stay in
patients with community-acquired pneumonia: a randomised, double-blind,
placebo-controlled trial.Lancet 2011;
377: 2023–30
背景
市中肺炎患者(ICU管理が必要な患者を除く)に抗菌剤治療にステロイドを追加することが有効であるかどうかはっきりした結論が出ていない。
方法
double-blindで, placeboを対照群にして, オランダの2つの大学病院に入院した18歳以上の患者をランダム割り付けして
dexamethasone 5 mgまたはplacebo を4 日間静脈投与して入院日数を比較した。免疫不全、ICU、挿管管理が必要な患者は除かれている。
結果
2007年から2010年まで,
304名を153名がplacebo群、151名が dexamethasone 群に割り付けられた。143 (47%) 名がpneumonia of pneumonia severity
index class 4–5 であった。
入院日数中間値はdexamethasone 群が 6・5日(IQR 5・0–9・0)、placebo群が7・5 days (5・3–11・5)であった。
副作用として、高血糖がdexamethasone 群で67 (44%) 、 placebo群で35 (23%) に認められた (p<0 span="">・0001).0>
結論
市中肺炎患者にDexamethasoneを使用すると入院期間が短縮できる。
文献を批判的に吟味してみよう。
RCT論文の批判的吟味
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A.妥当性
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はい/いいえ/不明
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1.疑問が定式化されているか?
P:市中肺炎患者(ICU管理が必要な患者を除く)に
I:dexamethasone
5 mg静注4日間と
C:placeboで
O:入院日数に差があるか
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2.参加者はランダムに抽出されたか?
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いいえ
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3.対象群とコントロール群とにランダムに割り付けされたか?
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はい
ただし、dexamethasone 群に腎疾患、COPDが多く割り付けされた。
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4.参加者と評価者とがマスキングされているか?
・そうでないなら、シングルのマスキングはされているか?
技術的に二重マスキングは可能であったろうか?
・マスキングをしていなかった場合、マスキングは可能であったか?
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はい
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5.両群は同様な扱いを受けたか?
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はい
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6.研究は効果を示すだけのパワーをそなえていたか?
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はい
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7.すべての参加者が適切に数えられているか?
・追跡率が80%を超えているか?
・割り付け通りに分析(intention
to treat)されているか?
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はい
はい
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B.結果は何か
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8.治療効果の大きさは?
・どんな転帰を測定したか?
RR
RRR
ARR
NNT
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入院日数中間値がdexamethasone 群で 1日placebo群より短縮した。
副作用として、高血糖がdexamethasone 群で44%に認められた。
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9.どのくらい正確か?
・95%信頼区間
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P値:0.048
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C.結果の関連性は?
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10.眼前の患者とこの研究への参加者は類似しているか?
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以下の文章を参照
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<バイアス等の問題点>
・ランダム化後については問題ないが、選択バイアスが認められる。ステロイドの適応となる、ICU入室患者が除かれている。
・気管挿管患者が除かれている。
・一般的な肺炎患者よりCOPD罹患者が少ない。
・研究期間中にQ熱が流行していた。
・オランダではペニシリン感受性細菌がほとんどあり、米国・日本と異なる。
・Dexamethasone群に消化管穿孔が1例起こっている。
・統計的に有意差はないが、Dexamethasone群でICU入室期間、膿胸発生率が高い。
・ステロイドの適応とならない(悪化しかねない)ウイルス性肺炎と細菌性肺炎が入り交じっている。
・退院の判断に体温が含まれるが、Dexamethasoneの短期効果が影響した可能性がある(交絡かもしれない)。
・高血糖の頻度が増えるのは無視できない(NNH:5)
・消化管穿孔の副作用も無視できない。
<クリニカル・パール>
・糖尿病や消化管疾患がなく、胸部XPで細菌性肺炎の可能性が高い患者(ウイルス性肺炎ではない)に対して、早期にdexamethasone
5 mgを数日間静注すると入院期間が短縮する可能性がある。(山本和利)