『闇の迷宮』(ローレンス・ソーントン著、講談社、2004年)を読んでみた。
アルゼンチンの暗黒時代(1976年~1983年)を描いた小説である。アルゼンチンといえば、タンゴやサッカーを思い浮かべるかもしれない。
アルゼンチン軍部はペロン支持派や左翼活動家を拉致し、拷問し、殺害した。一般市民の行方不明者は3万人にも及ぶと言われている。1982年のフォークランド紛争は国民の目を政治から逸らすために仕掛けられたのだそうだ。しかしながらその目論見が失敗し、民主主義復活のきっかけになったという。
本書の主人公は、行方不明者の姿を見ることができるという不思議な力が備わっている。拉致された妻の生存を信じるという「想像力」を保持しながら、様々な人々の苦難を抱えた状況が次々と語られてゆく。
20世紀に決別したと思われた暗黒の状況が21世に入っても世界中で繰り返されている。このような暗黒の状況と比較すると、自分自身の不安が小さな取るに足らないものであると認識はできるが、明るい未来を信じるだけでは現状は変革されないという現実に、歯がゆい思いを募られているのは私だけであろうか。(山本和利)