『怪物ベンサム』(土屋恵一郎著、講談社、2012年)を読んでみた。
本書は20年前に出版された『ベンサムという男』を改題して講談社文庫に入れたものである。ベンサムといえば、功利主義、最大多数の最大幸福が有名らしい。ベンサムの趣味は、チェスと音楽と猫。快楽主義で、快感を善とする理論である。本書を読むとベンサムとは徹底して変な人であることがわかる。ベンサムは遺言して、自分の死体をミイラとして残している(これは現在までオートイコンとして残っているそうだ)。英語による最初の同性愛擁護論を書いている。また、『高利弁護論』を書いた。「自分の利益を見込んだ上で、自分自身適切と思える利率で金を借りる取引をすることを決して妨げてはならない」と。パノプチコン(一望監視装置)様式の監獄を考案した。(ミッシェル・フーコーが取り上げて有名になった)。1928年に建設された巨大なパノプシコン様式の監獄がキューバにあるそうだ。
彼の掲げた方策は次の通り。
1)他種類の食物の導入。
2)非アルコ-ル系飲料の導入。
3)衣服、庭、家具の整備。
4)時を過ごすためのゲームの発明。
5)音楽の奨励。
6)劇場、州階、公共の娯楽。
7)芸術、科学、文学の奨励。
1800年に、笑気ガスへの関心と冷蔵庫の開発を試みたという。夏の自然の威力から、人間の生活を隔離すること、そこで腐敗と悪臭から免れた生活が始まることを夢見た。
18世紀にいた一風変わった哲人の話である。(山本和利)