札幌医科大学 地域医療総合医学講座

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地域医療総合医学講座のブログです。 「地域こそが最先端!!」をキーワードに北海道の地域医療と医学教育を柱に日々取り組んでいます。

2013年1月21日月曜日

ニポポスキルアップセミナー

116日 後記研修プログラム「ニポポ」のスキルアップセミナーで臨床推論の講義をした。

 

今回は臨床推論3回シリーズの2回目で、「臨床検査の精度」という概念を紹介し、それを現場でどう活かすかという話をした。

 

前回の講義の簡単な復讐をしながら講義を進めたのだが、恥ずかしいことにこの復讐の内容が間違っていた! 講義の最後に訂正していただいたため、間違いがそのまま伝わってしまうことは避けられたが、いやはや何とも恥ずかしい話である。聞きに来ていただいた方にはただただお詫びするばかりです。

 

まず、「呼吸困難を訴える患者の原因が左心不全である」と判断するための様々な所見の尤度比を紹介したが、その中で「Ⅲ音」はLR+11とかなり診断に迫れる臨床所見といえる。

 

だが、このⅢ音。果たして、すべての臨床医があまねく診断することができる所見なのだろうか? 同じ患者でも診察する臨床医によって、結果が異なるということはないのだろうか?

この、観察者による臨床検査の結果の変動(観察者変動)のことを精度(Precision)というのである。

最初の臨床医
陽性
陰性
2番目の
臨床医
陽性
23
5
28
陰性
6
66
72
29
71
100

                 (図1

ある2人の臨床医がクモ状血管腫の診察を行った時のそれぞれの臨床医が、陽性・陰性と診断した結果の表を紹介しながら概念を説明した。(図1

 

2人の診察が一致したのは、2人とも陽性もしくは陰性と診断した、(2366)÷10089%となる。精度はこの一致率を持って判断するのではない。

 

最初の臨床医
陽性
陰性
2番目の
臨床医
陽性
238
5
28
陰性
6
6651
72
29
71
100

                  (図2

 

少し複雑な計算となるが、

最初の臨床医は100人の患者のうち29人を陽性と判定しているので、29%の確率で陽性と判定するコイントスと仮定すると、2番目の臨床医が陽性と判定した28人のうち、29%(=8人)は最初の臨床医も陽性と判定されるため、結果は、偶然に一致すると予想される。

同様に陰性と判断した72人のうち29%(=51人)は最初の臨床医の判断と偶然に一致すると予想される。

 

2人の臨床医が偶然によってのみ結果が一致するのは(851)÷10059%と予想される。つまり、実際に一致した89%のうち、89-59%=30%がこの2人の臨床医によって達成された偶然を超えた一致と考えられる。

この2人の臨床医の場合、59%偶然に結果が一致するため、100%-59%=41%が偶然を超えて一致する可能性が残されていると考えられる。

つまり、残された41%の可能性のうち、30%がこの臨床医によって成し遂げられたと考えられるので、κ値=30÷410.73と表現する。(偶然を超えて一致する可能性のうち73%はこの臨床医によって成し遂げられたと考える)

このκ値は以下のように判定される

0.0-0.2  わずかな一致

  0.2-0.4  若干の一致

  0.4-0.6  中等度の一致

  0.6-0.8  大幅な一致

  0.8-1.0  完全な一致

ちなみに、Ⅲ音の一致率κ値=0.14-0.37と若干の一致をみるにすぎない。つまり、Ⅲ音によって砂質不全の診断に迫る場合は、同じ患者さんでも診察医による結果はあまり一致しないということになる。

 

では、一致率の低い臨床所見は無意味なのだろうか? 否。

研究では、同じ臨床所見でも、熟練した臨床医による一致率は高くなる傾向にある。つまり、κ値が低い臨床所見はそれなりに熟練が必要なのである。我々は、常日頃から臨床所見の精度を高めるための訓練を怠ってはならないのである。

よくよく考えれば、当たり前のことであるが、その当たり前のことを「精度」という概念を用いて説明した。

 

この後、心筋梗塞を疑う55歳の男性の症例をもとに、「心筋梗塞」と診断していく過程で診断に使用される臨床所見についてのκ値を紹介しながら、臨床推論を進めていった。

 

臨床症状
LR
確率上昇
κ
胸痛の放散
両腕の痛み
9.7
+45
0.89
左腕の痛み
2.2
+15
0.89
右肩の痛み
2.9
+20
0.89
聴診での
3.2
+20
0.14-
0.37
低血圧(≦80mmHg)
3.1
+20
聴診での肺雑音
2.1
+15
0.12-
0.31
発汗
2.0
+15
嘔気・嘔吐
1.9
+15
心筋梗塞の既往
1.5-3.0
+10-20

 

 

 

 

 

 

 

臨床症状
LR
確率低下
κ
呼吸性の変動
0.2
-30
0.44
鋭いまたは
刺すような胸痛
0.3
-25
0.30
体位による変化
0.3
-25
0.27
触診で誘発される
0.2-0.3
-25-30

 

 

診断の正確度(感度・特異度)は優れていても、観察者変動がある所見が意外に多いことが伝わったと思う。

 やや難しい概念であったが、要は、「人によって結果が違う臨床所見は、熟練が必要である」というしごく当たり前のことなのである。

                                (助教 松浦武志)

2013年1月18日金曜日

試験と記憶

先日、4学年対象の「地域医療学」と「臨床疫学」の試験が終了した。満点に近い者から不合格までいろいろである。

さて、ある実験についての報告(脳科学者:池谷祐二氏の講演)。

1.ある語学試験後、出来た問題もできなかった問題もすべて復習し、全問同じ再試験をする。これを全問正解するまで続ける。

2.ある語学試験後、できなかった問題だけ復習し、全問同じ再試験をする

3.ある語学試験後、出来た問題もできなかった問題もすべて復習し、できなかった問題だけ再試験をする。

4.ある語学試験後、できなかった問題だけ復習し、できなかった問題だけ再試験をする

結果は、どれも変わらなかったそうだ。ならば、できなかった問題だけ復習し、できなかった問題だけ再試験をすればいいように思える。

ところが、数ヶ月後に再試験をすると、全問同じ再試験を受けた群だけが有意に成績がよかったそうだ。81%対31%。

これから言えることは、知識を入力すること(学習)よりも出力すること(試験)が記憶には重要であるということである。知識を溜めることより、他人に示すことが大切ということだ。入力した情報を入れたままにするよりも、誰かに教えることが実は自分の記憶にとどめるのに最良の方法と言えるのだろう。(山本和利)

 

 

2013年1月17日木曜日

着陸時の頭痛


飛行機での旅行に関連して起こる疾患として、深部静脈血栓症静脈血栓症(エコノミークラス症候群)が有名であり、気圧の変化で耳が痛くなることもある。これは航空性中耳炎というらしい。

最近、飛行機の離陸時に必ず右前額部の痛みを起こす患者さんの相談を受けた。調べてみると、これは航空性副鼻腔炎として知られており、副鼻腔が風邪や炎症で詰まっていると、空気の出入りが妨げられて、気圧が変化したときに、中耳炎と同じように症状を起こすという。鼻づまりのような症状のほか、頭が重く感じたり、頭痛、頬の痛み、目の奥の痛んだりの症状が現れる。

対処法を聞かれ、着陸態勢に入ったら鎮痛剤を内服してはどうかと提案したが、一般的には航空性中耳炎と同じで鼻をつまんでつばを飲み込む、あくびをする、飴をなめる等の耳抜きを行うことが勧められている。

この相談を受けるまで、このような病態を意識していなかったが、ネットで検索すると意外とたくさんの方が悩んでいるようだ。(山本和利)

 

 

1月の三水会

116 日、札幌医大で、ニポポ研修医の振り返りの会が行われた。松浦武志助教が司会進行。後期研修医:1名。他:4名。

 研修医から振り返り1題。

ある研修医の経験症例。耳鼻科で研修中。副鼻腔炎、扁桃腺炎が多い。扁桃摘出術、鼻中核矯正術。いびき、SASの検査。救急外来は、インフルエンザが多い。25歳男性、膝の蜂窩織炎と診断し、抗菌薬投与。31歳女性、顔面の帯状疱疹。23歳女性、発熱、頸部痛、EBV感染症。

8か月男児の痙攣。不機嫌で手を震わせる。嘔吐。体温が38.4℃。3分間の間代性痙攣。

痙攣の家族歴なし。7.4kg, RR;78/m ,RR:20/分。SpO2:99%, 脳波はspike & wave。MRIの拡散強調画像で皮質下白質高信号。痙攣重積型急性脳症と診断し、高度医療センターに転送となった。

はじめは良性疾患を考えていたが、入院後痙攣が重積し、痙攣重積型急性脳症の可能性が高まり、愕然とした。ICの時、母親が冷静に対応されたことが救いであった。土日に検査ができなかったことが悔やまれる。

てんかんの診断フローチャートを紹介。部分てんかんの第一選択薬はカルバマゼピン。

熱性けいれん。左右対称性の痙攣。発熱時、20分以内、発作後意識はある。(1歳未満で発症、親に既往があると再発率が高い)。発熱が8時間以上続く場合は、ジアゼパンを投与。

クリニカル・パール:反復する痙攣を見たときには、速やかにMRI,脳波を。

コメント:出生時に問題があったのではないか。受診時には痙攣重積状態であったのだろう。早く気付いたら予後が改善したか?再発した熱性けいれん例にどう対応するか?てんかんが熱性けいれんに紛れている(熱性けいれんの7%がてんかんに移行する)。

 

今回はじっくりと検討が行われた。このような討議も基に家庭医専門医の報告症例としてまとめてほしい。(山本和利)

2013年1月11日金曜日

選択実習説明会


19日、札幌医科大学5年生に地域医療総合医学講座の選択実習説明会を開催した。

学生が8名、研修医2名が参加してくれた。

■総合診療科 選択ポリクリの本当のキーワードは「99.9%

総合診療科の臨床実習で、地域へ行って、999/1,000の「健康問題」を

 取り扱ってみよう!!

多くの人が抱える「健康問題」に接したければ、その現場に行こう!

2年間の臨床実習で、1か月間地域で一人の社会人として患者さんと接して

 みよう!とアピールした。

■コースは3つ

  総合診療コース

   江別市立病院 (北海道江別市)

   松前町立松前病院 (北海道松前町)

地域医療コース

   湯沢町保健医療センター (新潟県)

   六合温泉医療センター (群馬県)

   富良野協会病院 (北海道富良野市)

家庭医療コース

   更別村国保診療所 (北海道更別村)

   寿都町寿都診療所 (北海道寿都町)

   生協浮間診療所 (東京都)

   月寒ファミリークリニック (札幌市)

■ポートフォリオの課題は基本的に2つ

① 一週間の振り返り(計4枚)

② 経験症例リスト

上記を実習のまとめの際、使用する

■4週間の地域での実習を通して臨床に即した

  国家試験対策を行える!

■実習で経験した手技・症例を紹介。

担当入院患者5人(新規入院患者1人)

手技

心肺蘇生1

採血(静脈血を約10回)

 動脈血採血2

経験症例

 痛風

 パニック発作

 骨折

見学

 胃瘻造設

 胸水穿刺

 関節注射

■地域住民を対象にした講演会

 1.話題の選び方

 2.プレゼンテーション能力

 3.情報発信能力

l  地域の指導医のもと経験を積める!

l   国家試験まで時間は限られている!

l   地域での実習を通して臨床に即した

  効率の良い国家試験対策を行う!その方が記憶に残る!!

■臨床研修プログラムのエッセンスを紹介

l  診断学のプロ

l   診断にEBM

l   問診と身体診察を重視

上記を研修目標に教育

来たれ!総合診療科

場所を移して、二次会で実習や研修について熱く語り合った。(山本和利)

風邪


日常診療で「風邪」と診断することは多いが、医学部でそれを系統的に教えることは少ない。その「風邪」について系統的に、日常診療に沿ってまとめた本が出版された。岸田直樹著『風邪の診かた』(2012年)医学書院、である。

風邪を定義すると、「ほとんどの場合、自然寛解するウイルス感染症で、多くは咳、鼻汁、咽頭痛といった多症状を呈するウイルス性上気道炎のこと 」。そのとき、「ウイルス感染症 」は、多領域に及ぶ感染の症状 を引き起こし、「細菌感染症 」は単一の臓器に1種類の菌が感染 するという原則を覚えておくと参考になろう。

 
診察にあたっての考え方。3段階で考える。

}  咳、鼻汁、咽頭痛の3領域に注目する

       Step1 典型的風邪型

       Step2 3症状のどれが主か

   1.鼻症状

   2.喉症状

   3.咳症状

       Step3 細菌感染症との区別

   細菌性副鼻腔炎

   A群溶連菌咽頭炎、扁桃周囲膿瘍、急性咽頭蓋炎

   細菌性肺炎

■鼻症状が主な場合

   アレルギー性鼻炎

   朝方にくしゃみ、鼻水がでる

   季節性の経過

   視診で鼻粘膜が蒼白

   細菌性副鼻腔炎:肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ・カタラーリス がほとんどである。

   症状が二峰性

   片側の頬部痛

   うつむいたときの頬部痛

   上歯痛

   鼻汁色調の変化

   膿性鼻汁

   坑アレルギー薬に反応が悪い

   治療を考慮する場合

   片側の頬部痛、腫脹、発赤

   7日以上症状が続く(発熱、痛み)

       要注意

   糖尿病患者:ムコール

   好中球減少症:アスペルギルス、ムコール

       治療:サワシシン、+オーグメンチン

UpToDateを読んでも、抗菌薬を使用しなければならない状況は、思った以上に少ない。

■喉症状が主な場合

Five killer sore throatsを見逃さないこと。

   急性喉頭蓋炎

   扁桃周囲膿瘍

   咽後膿瘍

   Ludwiingアンギナ (口腔の蜂窩織炎)

   Lemierre症候群 (感染性血栓性頸静脈炎)

   嚥下痛がないときは要注意!

   心筋梗塞、大動脈解離、

   亜急性甲状腺炎:TSH, ESR

   Centorの診断基準 (これを知らないと総合診療医と言えない)

   38℃以上の発熱、圧痛を伴うリンパ節腫脹,白苔、咳なし

   伝染性単核症

   VCA-IgM, CMV-IgM で確定。

   「喉頭違和感 」患者も少なくない。

■咳症状が主な場合

肺炎を疑う病歴は、 「悪寒戦慄を伴う発熱+咳 」と「二峰性の症状」

胸部Xpの感度は100%ではない 。7%で初期の肺炎ははっきりしない。 インフルエンザ、結核 を忘れないこと!

■咳が長期間続く場合

   気管支炎後症候群

   後鼻漏

   結核

   咳喘息

   逆流性食道炎

   百日咳

   ACE阻害薬

   肺がん

を鑑別する。

■高熱型の場合

        1. 急性腎盂腎炎
        2. 急性前立腺炎
        3. 肝膿瘍
        4. 化膿性胆管炎
        5. 感染性心内膜炎
        6. ケテーテル関連血流感染症
        7. 蜂窩織炎
        8. カンピロバクター腸炎の初期
        9. 師髄炎
        10. 肛門周囲膿瘍
        11. その他:敗血症
■微熱+倦怠感型

これをきたす二大疾患は急性肝炎 と急性心筋炎 !倦怠感が著しい場合、心音を聴取をすること。

非感染疾患
        1. 無痛性甲状腺炎
        2. PMR
        3. 悪性腫瘍
感染症
        1. 結核
        2. 感染性心内膜炎
        3. CMV mononucleosis

■発熱+頭痛型の場合

最初、ウイルスは後回しにして考える 。SLE 、Behcet病、 サルコイドーシス 、繰り返す髄膜炎 等を念頭に置く。

感染性 では、

・硬膜外膿瘍

・細菌性髄膜炎

・細菌性心内膜炎

・(結核)

・(HIV髄膜炎)

■発熱+胃腸症状の場合

胃腸炎 と診断するには、「38℃以上の発熱 」「6回以上の下痢 」「腹痛 」の条件を満たすこと。安易に胃腸炎と診断すると、「胃腸炎に紛れた疾患 」を見逃しかねない。

胃腸炎に紛れた疾患

        1. 虫垂炎
        2. 心筋梗塞
        3. 糖尿病性ケトアシドーシス
        4. 消化管出血
        5. 脳血管障害
■発熱+関節痛の場合
   ウイルス感染

   パルボウイルス

   風疹

化膿性関節炎 では、淋菌性 または反応性 を考慮する。

高齢者の多関節炎 では
        1. 痛風/偽通報
        2. 細菌性;A群溶連菌
        3. 肺がん
■発熱+皮疹型の場合

   重要なのは流行りと接触歴

多形滲出性紅斑 では

        1. マイコプラズマ感染源、単純ヘルオエスウイルス
        2. アデノウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、肝炎ウイルス、コクサッキーウイウス、パルボウイルス、HIV、サルモネラ、結核、梅毒
        3. 薬剤;NSAIDs、抗けいれん薬、抗菌薬
結節性紅斑 では、連鎖球菌感染 、薬剤性 、原因不明 、その他;避妊薬、SLE,HIV,梅毒

■発熱+頸部痛型
        1. 伝染性単核症
        2. 菊池病
        3. 悪性リンパ腫
        4. 結核
        5. サルコイドーシス
        6. その他
頸部痛なのに所見がない場合は要注意!「大動脈解離 」「心筋梗塞 」「くも膜下出血 」!特に突然の発症例では頸部触診、聴診を忘れないこと!

最悪な感染症 は、「深頸部感染症 」「髄膜炎 」「骨髄炎 」「硬膜外膿瘍 」
 

「風邪」といっても勉強すると奥が深い。緊張して日常診療に臨まなければと気持ちを新たにした。(山本和利)