4月21日、医療福祉生協連 家庭医療学開発センターの藤沼康樹先生の講義を拝聴した。講義のタイトルは「家庭医療の実践」である。まず、自己紹介をされ、家庭医療に出会ったエピソードを熱く語られた。臓器ではなく患者を診るロールモデルとの出会い。
待合室での突然の健康教室の実施。
診療所での活動の始まり。
初めて研修医を受け入れ、研修医が学会発表。
英国のGeneral Practice研修の始まり。文通が始まった。英国に行くことになった。何でも相談に乗るGP.長年付き合ってきた少女の健康相談。
医学教育の学び。Dundee大学医学教育フェローに入った。ポートフォリオを日本に導入した。
2005年家庭医養成プログラムを導入。
カブール医大の視察を受け入れた時の話。往診に連れて行った。ケースカンファを見せた。地域の困難事例を紹介した。日本に来て、彼ら自身がカブールの医療を振り返る機会になっている(地域の現場で学ぶ大切さ)。
一人でできることは限られている。巻き込むことが大事。
2008年、研究を視野に入れる。
2011年、東日本大震災への関わり。
2013年、武見賞を受賞・
自分の現場で仕事を続けることの中で、新しいコンセプトや人との出会いが生まれた。
継続することの生み出す信頼感。
恥ずかしがらず、突っ込んでゆく。
真の出会いはcontributionから
日常遭遇する患者さんたちを紹介された。
家庭医が思春期を診る。17歳女子高生。咽頭痛。予防的介入をすることが大事。アルコール、タバコ、薬、性感染症。思春期独特の悩みの相談。風邪が出会いのきっかけになる。高校で依頼講義は違法薬物、等が多い。
家庭医が子どもを診る。1歳の男児。微熱。第1子に何を聞くか? こどもを診ることで親の世代を診ることができる。母子手帳を見る。予防注射、乳児健診。両親、祖父母の健康問題の相談に乗る。小児保健という。家族志向性小児保健。比較的元気な急性期の症状に対応する。夏休み子供企画。医学部1日体験入学。夏休みの自由研究になる。
54歳男性。腰痛。尿酸が7.8mg/dl.紹介が必要な腰痛(うつ病、膵がん、椎体炎)を除外する。症候別のRed frag signを覚えること。
62歳男性。高血圧。この時期にいろいろなライフ・イベントがおこる。定年の時期。夫が夫人の行動をチェックしたりすると、夫婦の危機となることあり。
44歳女性。糖尿病で血糖降下剤を内服。HbA1c:10.8%。前医には理解の悪い患者と思われていた。夫が54歳タクシー運転手、姑がアルツハイマー病、息子が高校中退。家族ライフサイクルを考慮する。タクシー不況、介護が大変。息子の突然の変化、肉食中心の食事。家族全体の相談役である。介護保険の導入を提案。
27歳の女性。人混みで動悸。パニック障害。アルコール、うつ病、パニック障害は家庭医が診るこころの3大疾患である。
78歳男性。前立腺がんで通院中。専門医とshared care。がんの早期診断が重要。診療所のトイレにHIV、性感染症等のパンフレットを置く(すぐなくなる)。予防と健康増進。
18歳男性。大学受験のための診断書希望。継続的に診る。医師がその人にとっての便利な資源になっている。家庭医は個人と家族を連続的に診ている。
63歳男性。妻と二人暮らし。アルツハイマー病。診断後10年で死亡する。家庭医はどう診るか?日本は、神経内科→精神科→在宅医療、となっている。早期にチームで関わると予後がよいという報告がある。視線を合わせることが大切。
89歳女性。夜間尿失禁。糖尿病。利尿剤が増えた。膝OAで整形外科に通院中。白内障でよく見えない。4つが累積して尿失禁が起こっている。家庭医が高齢者を診る。医学的診断をつけても50%しか解決できない。「物忘れ」「失禁」「元気がない」「フラフラする」などの問題を得意とする。別個の問題を総合的に判断する。健康なところ、元気なところを伸ばす(健康生成論)。
6歳女児。咳、鼻水。母親は妊娠中。大工の父親は喘息だが喫煙者。妊娠はDVのハイリスク。
特定集団のケア。母子寮で予防接種を受けていない子供が多かった。公営団地で「孤独死」が多かった。一軒屋に住む老老家族が危険。多剤内服している患者が施設に入ると危ない(すべての薬を飲まされて、副作用の出現)。猫屋敷、ごみ屋敷。地域でもっとも健康格差のある分野への取り組み。「住みやすい街づくりに興味」
往診の事例を紹介。家庭医は、自宅でできるだけ過ごしたいという願いを最大限叶えることができるように支援します。がんの在宅緩和ケア、非がんの在宅緩和ケアが重要。
五十嵐正絃氏の言葉が好き、「長く身近にいて、すべてに関わる」を紹介。特定の個人、特定の家族、特定の地域に継続的に関与すること。
家庭医のよろず相談とは
日本は医療システムの使い方を国民に指導しない唯一の国である。ガイド役が重要。
臓器別専門医は、特定の疾患を持つ患者の特定の疾患に特定の問題が生じたときに自己完結的に診断・治療する。
一方、家庭医は、特定の個人、特定の家族、特定の地域にすべてに継続的に関与する。
最後にMcWhinneyの家庭医療の原理を紹介。
自分で考えるということが学びの基本である、としみじみと語った。学生からは、面白かった、家庭医療のイメージが変わった、医師を目指したときの気持ちを思いだした、等講義への賞賛の声が出ていた。(山本和利)