2月20日のニポポスキルアップセミナーは「臨床推論シリーズ」の第三回目として「事前確率」についてレクチャーを行いました。
若手の方には医療従事者として働き始めても、臨床推論や診断学が実際の現場で生かされているイメージは浮かびにくいと思います。
診断学を教える時によく聞く質問としては以下のことです。
「そもそも事前確率なんて、その場の環境とか個人の経験で変わっちゃうわけですよね?」
「だいたい最初の事前確率はどうやって知るのですか?個人の考えや経験により異なるので一般性はないのでは?」
診断学では様々なテクニックや診断法を学ぶわけですが、所見や検査の感度特異度からの尤度比は数値化できても最も重要な医師個人の頭の中の事前確率はブラックボックスに思えてしまいます。
若い学生・研修医向けに分かりやすく説明するために今回は国民的ゲームである「ドラ◯ンクエスト」をはじめとしたロールプレイングゲームになぞらえて解説しました。
キーワードは「成長」です。
ゲームでは主人公は一般的に下記のような成長過程をたどります。
① フツーの若者が勇者を夢見て旅に出る。
② 最初は弱いモンスターにも負ける
③ 武器と防具を買ってパワーアップ
④ 弱い敵をやっつけながら金と経験値を稼ぐ
⑤ 経験値が貯まるとレベルアップする。
( 強さ・かしこさ・魔法など)
⑥ もっと強い敵も増え、手強くなる。
⑦ 自分の仲間を増やす(①~⑦くりかえし)
⑧ 最強の敵をやっつけてハッピーエンド
一方医師の成長も下記の過程を辿ります。
① 実際の臨床現場ではフツーの若者が医者免許をGET!
② 最初は簡単な病気も分からない。
③ 診断学を学んでパワーアップ
④ 簡単な病気をこなしながら金と経験値を稼ぐ
⑤ 経験値が貯まるとレベルアップする。
(知識・診断力・技術・度胸など)
⑥ もっと難しい病気も扱い、手強くなる。
⑦ 自分の医師仲間を増やす(①~⑦くりかえし)
⑧ 医師の成長には終わりは無い
こうしてみると似ているようでもあります。
ゲームにおいても臨床においても、初心者は自分の周りの敵(疾患)にいつ出会うか分かりません。また敵(疾患)の強さも分かりません。無鉄砲な作戦を取れば、あっという間にヤラれてしまいますので、自然と慎重な戦い方になります。
ゲームにも慣れてくると最も危険な敵を瞬時に見分けて攻撃を集中し、効率よい戦いかたを覚えます。同様に医師も経験をつむに連れて直観的推論を多用して効率よく、危険をさけて臨床判断を下せるようになります。これは、一つ一つの判断で効率よく情報収集を行い、事前確率が高められる為です。しかしバイアスを認識できて補正できないと諸刃の剣になるため、熟練者以外はミスを誘発しやすくなります。臨床になれた4〜8年めで失敗をしやすいのはこのためです。
しかし、医師としてキャリアを積みながらどのように事前確率を高め、鑑別診断を優先順位付けする力を付けるかは若手からベテランになる上で重要な分岐点です。
1) 毎日学び続けること
2) Evidenceから事前確率を高めるツールがある事(予測スコアなど)
3) 医師仲間、同僚と協力すること
4) しっかりとしたディスカッションのできる現場で働く事
5) 教育を学びの糧とすること
注:著作権の観点からスライドは実物よりかなり修正・省略してあります。
実物は100倍面白いです(言いすぎかな?)(稲熊良仁 助教)