その1症例
® 47歳男性。労作時の胸焼けで受診した。安静にしたり、ゲップをしたりすると治る。この症状が3ヶ月間続いている。
® 放散痛なし、息切れ、動悸なし
® 安静時には起こらない。
® 食事・食べ物と無関係
® 腎血管狭窄性高血圧でACE-I,βblocker, 利尿剤を内服
® 喫煙者
® 父親が49歳時に心筋梗塞で死亡。母親・3兄弟のうち2名が心筋梗塞
(身体所見:省略)
診断に関する学生の問題点として、検査前確率を正しく設定できない。この症例では低く設定しているものが多かった。画像や心電図の結果を陰性か陽性かに正しく判断できない学生も少なからずみられた。
復習後、オッズと尤度比を用いて、検査後オッズを計算する方法を紹介した。
ここでは確率をオッズに変換し、尤度比を用いて計算する。検査後確率を計算で求めるためには、オッズ(odds )と尤度比に置き換える.
覚えるべきことは、検査前オッズ×尤度比=検査後オッズという式である。
これに慣れると暗算できるので便利である。
後半は、以下のような状況で考えてもらった.
「診断は十二指腸穿孔であるかどうかに的を絞る.治療は手術をするか,しないかの選択肢のみとする.」と仮定して話しをすすめた.その治療に関わる分岐点の値のことを治療閾値(t)と呼ぶ.今回はこの求め方について解説した.
ここでは結論だけ提示しておきたい。
治療閾値(t)は治療で得られる利益(Benefits: B)と不利益(Costs: C)の割合によって決まる。まず治療によるBとは病気の場合に治療することによって得られる利益から病気があるのに治療されないときの不利益を差し引いた値と定義される.一方、病気がないときの治療は無駄な費用や医療過誤を引き起こす.それゆえ,治療がもたらすCは病気でないときに治療を控える利益から病気がないのに治療で被る不利益を差し引いた値と定義される。治療する選択肢の期待値と治療をしない選択肢の期待値が等しい確率Pが決断の分岐となる確率tであり、それを治療閾値と呼ぶ。BとCとで書き換えるとt=C/(C+B) または t=1/[(B/C)+1]と表すことができる。
「B/Cすなわち損失に対する利得の比率が大きければ,病気の確率が低くても治療を選択し、患者への利得が少ない場合はかなり病気の確率が高くないと治療を選択すべきでない」という常識的な答えが導かれる。
このような基本的な考え方を習得しておくことは医師にとって不可欠であろう。(山本和利)