心房細動の治療の仕方が変わりつつあるという。ミニレクチャー後、症例を介して講義が行われた。
■心房細動について
病態は異常自動能亢進であり、、肺静脈付近に原因があると言われている(肺静脈と心房の付近をアブレーションする治療法がある)。ポンプ機能の低下が起こる。血栓形成による脳塞栓症(大きな梗塞巣)を予防する。最近では高血圧、冠動脈疾患、心筋症に伴うAfが急増している。
・治療の歴史をみてみると、除細動をすると長年されてきた。米国の研究で、リズム治療した群とレート治療群(正常化した者のワーファリンは中止となっていた)とで脳卒中発症を比較したがアウトカムに差はなかった。ワーファリンは継続することが重要である。
・日本でJ-RHYTHMという研究が行われた。発作性Afではリズム治療(サンリズム、タンボコール)。持続型はレート治療(ワソラン、ジギタリス)が有効ということになった。
もちろん、基礎疾患がある場合には、基礎疾患をまず治療する。
・日本で行われたJAST研究によると、軽症者へのアスピリンの脳梗塞予防効果はなかった。
・CHADS2スコアが3点以上はワーファリンを使用する。INR;75歳以下では2.0-3.0, 75歳以上は1.6-2.6を目標とする。{CHADS2:CHF(心不全)、HT(高血圧)、Age>75(高齢)、DM(糖尿病)は、それぞれ1点、Stroke/TIA(脳卒中/一過性脳虚血発作)は2点に計算される。合計点をCHADS2スコアという。}
・ワーファリンは2mg/ 日から開始する。この治療はモニタリングが大変。抜歯のときは継続でよい。内視鏡検査でも服薬は継続でよい。
・ダビガトランは出血が少なく、ワーファリンと効果に差がない。CHADS2スコア1点にも推奨となった。腎機能低下者には要注意。副作用として消化器症状がある。手術時には24時間前に中止すればよい。ワーファリンからダビガトランに切り替わる事例が増えるだろう。
■症例
・54歳男性、心房細動がアルコール飲酒後の翌日に起こる。受診時の心電図は正常。
診断;発作性心房細動。甲状腺をチェックする。治療は禁酒。CHADS2は0点なので抗凝固療法はしない。サンリズムまたはタンボコールを使用。安定したところで薬剤を中止。
・75歳女性。高血圧治療中。心房細動120/分が2日間以上続いている。糖尿病はない。左房径はやや大きい。
診断;持続性心房細動。甲状腺をチェックする。治療:まず、血圧のコントロール。CHADS2が2点なので抗凝固療法の適応。レートコントロール目的でβ遮断薬またはワソランを使用する。
・43歳男性。検診で異常なし。海外出張後、動悸を主訴に救急車で受診。120/分。
診断;心房細動。治療:若い人では翌日、正常になっていることが多い。ワソラン静注。ワソラン3T+サンリズム3Tの処方をする。改善なければ、翌日、朝食を抜いて受診してもらう。ヘパリンを使用してDCをかけた(血栓形成がされる48時間以内にかけなければならない)。心電図は正常化し、その後、再発なし。
・44歳男性。検診で心房細動を指摘されている。無症状。72/分。左房径が大きい。甲状腺機能は正常。
治療:CHADS2は0点なので抗凝固療法はしないのがエビデンス。ただ患者から希望があったため、ワーファリンで抗凝固療法を3週間おこなってから、入院してもらいヘパリン静注後、DCを行った。洞調律になったが2ヶ月後にAfに戻ってしまった。ワーファリンを継続している(4週間以上継続する必要がある)。
・65歳男性。検診で心房細動を指摘された。自覚症状なし。心電図;心房細動で90/分。
治療:CHADS2は0点だが、65歳以上は治療選択に関して議論がある。この事例ではレート治療のみで経過をみて、いずれ抗凝固療法を開始する。(最近のエビデンスではレート治療をしても差がないとなっている)。
・70歳男性。動悸。心電図;心房細動で120/分。
治療:CHADS2は1点。β遮断剤とダビガトラン(プラザザキサ)を処方。(III群のヘプリコールは専門医が用いる薬剤である。なぜなら心機能が落ちるし、致死性不整脈を誘発するから)。
聴衆者から、個々の症例について対応方針を聞きながら講演を進められた。久しぶりに盛り上がった講演会であった。(山本和利)