・がんの症状マネジメント
2007年から緩和ケア研修会が行われている。がん治療モデルが変わってきた(これまではがん治療をし終えてから緩和医療に移行する)。
WHOの定義も変わってきた(2002年)。「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患に伴う様々な問題に直面している患者とその家族に対し、疾患の早期から疼痛、身体問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に対してきちんとした評価を行い、それが障害にならないように予防し、対処をすることで、QOLを改善するアプローチである」
今は診断早期から有機的な連携をもって抗ガン治療を行い、緩和ケア、死後には遺族ケアを行う。4期肺がん患者のRCTでも、標準治療群よりも早期緩和ケア群の方が抑うつ、不安が少なく、生存期間の中間値が長いことが報告された。
・全人的苦痛という概念をシシリー・ソンダースが提唱。
身体的(痛み、身体症状)、精神的(不安、苛立ち)、社会的(経済的、仕事上、家庭内)、スピリチュアルな苦痛(生きる意味、自責の念)
日本のがん拠点病院は全国で388か所。道内は20か所。地域の偏在がある(道南、札幌に集中)。
・ホスピス・緩和ケアの歴史
教会、巡礼者・病人をもてなす施設。1967年にシシリー・ソンダースがセントクリストファホスピスを設立。1986年にWHOが「cancer pain relief」を発刊。
日本では1977年「死の臨床研究会」が発足し、1981年に三方原病院ホスピス病棟開設。2007年、「がん対策基本法」施行。緩和ケア研修会開催が義務化。2012年、入院日数による入院料の差別化。現在の平均在院日数は40日である。
緩和ケアはチームで行う。(主治医、看護師、ソシャル・ワーカー)死亡者は2025年に170万人を超えると予測。65歳以上の死亡者:79%(2000年)。世帯数4800万、世帯人数2.63人(2001年)。死亡場所;病院;82.3%、高齢者施設;3.1%、自宅:14.6%。日本では病院死が多い。施設死が少ない(2005年)。医療従事者は病院死を望んでいない(2-3%)。市民は38%。
患者の心の支えになるのは配偶者・子どもであり、宗教には頼らないようだ。「望ましい死」は人によって様々である。
近代医療は「死を否定」「cure」「延命」を目指すが、ホスピスケアは「死を否定しない」「care」「QOL」を重視する。
援助者の資質は5つ。1)誠実さ、2)感性の豊かさ、3)忍耐強さ、4)謙遜、5)愛
ここで事例を2つ紹介。
がん性疼痛の分類
・体性痛:部位が限局、明確(うずく、差し込む、鋭い痛み)
・内臓痛:局在が乏しく、不明確(押される、鈍い)
・神経因性疼痛:しびれ、電気が走る、焼けつく
疼痛コントロールの目標
・夜間の睡眠
・安静がとれる
・体動ができる
がん治療の原則
・経口剤
・時刻を決める
・痛みの強さに応じた薬剤
・患者ごとに適量を決める
・服用に際して細かな配慮
・鎮痛補助薬を用いる
三段階除痛ラダ―に則る。(1.非オピオイド性鎮痛薬(NSAIDs,
アセトアミノフェン)、2.弱オピオイド、3.強オピオイド)。日本では医療用麻薬の使用がまだまだ少ない。
痛みが押させられるモルヒネ血中濃度に対して、眠気は2.5倍で、呼吸抑制は10.4倍ではじめて出現するので、安心して増量してよい。
質疑応答
Q;過去にはオピエイド(芥子由来)といったが、今はオピオイドという
A:様々な麻薬様物質が発見されたから。
Q:緩和医療の現場にどうして僧侶が出てこないのだろうか?
A:仏教は葬式が主体で、縁起が悪いと日本人は思っているからではないか。
緩和ケア全般にわたる講演であった。次回から具体的な内容となるので、今から楽しみである。(山本和利)