『ハインズ博士再び「超科学」をきる』(テレンス・ハインズ著、化学同人、2011年)を読んでみた。
著者は神経学専攻の大学教授。本書の特徴は、ニセ科学に対する包括的かつ方法論的批判である。
ニセ科学の第一の特徴は、反証不可能性。ニセ科学者は反証を拒むし、反証を受け入れない。また必ず言い逃れをする。すなわち、一貫しているのは反証を受け入れまいとする精神的態度である。第二の特徴は、検証への消極的な態度である。厳格な条件で調べようとしない。第三の特徴は、立証責任の転嫁である。「ウソだと思うなら、科学的に説明してみろ」と批判者に否定証明の責任を転嫁する。本書はその3点に加えて、統計的有意性を重視する。
預言者の秘訣としてノストラダムスの予言が引用されている。そこにあるのは、曖昧でいい加減な予言を事件が起こってから具体的に肉付けするやり方であるという。実は事件後に語っているのに、あたかも事前に予言していたかのように人々に信じ込ませるやり方である。
UFOの写真はちょっとした撮影技術の二重露光を使えば簡単に捏造できるそうだ(フィルムを巻き戻して二重に撮影する)。UFO写真家は常習犯が多いという。
UFO誘拐事件の顛末が語られるが、ほとんどが捏造である。ミステリー・サークルはほとんどが朝方見つかるが、前夜に偽造されたものである。バニューダ・トライアングルにおける失踪事件の真相が語られる。
米国の政府機関が法的に許可しているうそ発見器に科学的な根拠はないという。
本書は第2版であり、新規に付け加えられたのが「なぜ代替医療は流行るのか? ホメオパシー効果の実態」である。これは実害がないから(自然治癒にゆだねている)甘く見られていた。100年前の医療は瀉血療法など、正規の医療の方に実害が多かったため、見た目効果があると思われていたと著者は推測している。医学雑誌『ネイチャー』にその効果が掲載されたが、その後調査団の厳格な評価によって否定された(意図的なデータの削除や二重盲検ではない観察者による主観的な評価等)。
「セラピューティック・タッチ、手かざしで病気が治るか」の章では、なんと9歳の女児(母親が看護師)が反証実験を企画実行し、効果がないことが証明したそうだ。
ハーブ治療の中では、セイヨウオトギリソウが抑鬱に対して効果があることが証明されているが、それ以外は証明されていない。また安全である保証がない。中国産のハーブ植物のある成分は腎障害を引き起こし、泌尿器官に癌を生じさせる危険がある。
自然療法には、水治療法、鍼治療、アロマテラピー、バイオフィードバック、呼吸訓練、銅製ブレスレット、浣腸、信仰療法、断食、ハーブ・サプリメント、ホメオパシー、催眠術、関節徒手整復、磁気療法、マッサージ、ポジティブ・チンキング、セラピューティック・タッチ、ヨガ体操等が含まれる。これらの効果はほとんど科学的に証明されていない。
代替医療の特徴の第一は、患者の体験談に頼ることである。効くと勘違いさせる効果として、プラセボ効果、自然寛解、「平均への回帰」を取り上げている。そしてこれらが複合することによって見かけ上効果があるように見えるのである(対照群が存在しない)。
ここでは触れていないが、臨床疫学的にはこれらに加えてホーソン効果(観察されることで効果が変わる)も見かけ上効果があるように見せる。
その特徴の第二は、科学らしく聞こえる用語や言い回しの多用である。
代替療法の効果のなさについては、『代替医療のトリック』(サイモン・シン、エツァート・エルンスト著:新潮社 2010年)を参照されたい。本ブログでも2010年7月12日に取り上げている。(山本和利)