前半はパスツールの発表であった。
お決まりの班員紹介から始まった。最近は脳内診断や動物診断などユニークな個人診断サイトがあるようだ。
最初にパスツールの主な功績をざっと発表した後に、その中から選りすぐりの3つについて詳しく発表があった。
1)それまで信じられていたアリストテレスの生物自然発生説の否定。
2)コレラ菌・炭疽菌・狂犬病ウイルスに対するワクチンの開発。
3)現代のワクチンについての概要の説明。
以上の3点であった。
この班は班員5人全員がプレゼンターとなって発表していた。多人数で発表を分担すると統一性がなくなるリスクがあるため、最近は2-3人で発表する班が多かったが、この班は、マイクの受け渡しなどを工夫して、5人で統一感を出す工夫をしていた。
この班のスライドは画像が多いことも特徴だが、その画像の動きが多いことが一番の特徴だろう。アニメーションを駆使して、非常に効果的なスライドとなっている。
パワーポイントも使いこなせば、かなり有効な発表が可能なのだと改めて思った。
また、この班は、発表の最後で、パスツールとは直接の関係はない、現代の日本と世界のワクチン情勢について調べて発表していた。
乳幼児の死亡率を高めている6大感染症として、はしか・ポリオ・百日咳・結核・破傷風・ジフテリアを挙げそれらによって、サハラ以南のアフリカでは実に9人に1人が5歳未満で死亡してしまう現状を報告していた。それらの感染症の予防に有効であるワクチンは7円から100円程度で供給できるという事実も紹介していた。「寄付をするならいつでしょう?」「今でしょ!」のお決まりのセリフも飛び出していた。
厳密には世界の乳幼児の死亡率を高めている一番の原因は、感染性下痢症による脱水や貧困による飢餓だったりするわけであるので、一概に寄付金がこうした状況を改善するわけではないが、パスツールの歴史を紐解く中で、こうした現代の問題にまで思いをはせることができたのであれば、今回の医学史の学習の意義は十分にあったと思う。与えられたテーマのみの勉強にとどまらず、こうした拡張性のある学習こそが、高校生までとは違った大学生の勉強であろう。今回のことを通じて、少しでもワクチンについて興味がわいて、感染症内科を目指す学生が出るかもしれない。
今後の医学史は現代医学に焦点が当たってくる。是非興味を持って取り組んでもらいたい。
後半はコッホであった。
コッホの班もスライドの文字は少なく、画像を多用し、大変わかりやすいストーリーであった。今年の1年生は非常にレベルが高いと思う。
1)コッホの生き様。幼少期の生活からノーベル賞を受賞するまでのエピソードを紹介していた。
2)そのノーベル賞を受賞するに至った偉業の紹介
3)コッホの発見が現代医療にどう活かされているかの検証
以上の3部構成であった。
パスツールの班と同じように現代の医療への貢献を検証しているところが素晴らしい。特に結核菌に対するBCGの功績を発表していた。
戦後間もないころ死亡原因第1位であった結核が急激に減少し現在25位になるまでに制圧されている事実などを紹介していた。また、BCGの功績だけでなく、ストレプトマイシンという抗結核薬の登場についても言及していた。えてして、自分たちの調べた業績だけを強調したくなるが、その他の要因についてまで調べてきていることは大変鋭い指摘であると感心した。図や、表が駆使されて非常に見やすい。
ただ、コッホの班は30分の発表に対し、スライドは104枚。1枚20秒弱の計算になる。つまり、スライド1枚当たりの文字数が減っただけという見方もできる。もちろんそれだけでもスライドは格段に見やすくなる。虫眼鏡でしか見えないようなスライドを使っている講演が多い中で、その工夫だけでも意味のあることだと思う。
ただ、途中、小分けにしたスライドの文字を読んでいるだけのような単調な場面も見受けられた。スライドは読み上げる内容を記載するためのものではない。自分たちが伝えたいことを端的に表現したタイトルなのである。
そのことを今一度確認して欲しい。
文字(スライド)による情報と音(声)による情報は本質的に異なるものである。
来週は大学祭で1週間医学史の授業はお休みとなる。今一度最初の「プレゼンテーションのコツ」の講義を思い出してもらいたい。これまでの班の良いところ・直したほう良いところをもう一度振り返ってもらいたい。そして、来週以降も素晴らしい発表を期待したい。
(助教 松浦武志)