最初の班はフロイトの発表であった。
まずはおなじみとなった班員の紹介から始まった。面白おかしく紹介することが定番となっている。特に今回は発表内容がフロイトなだけに、やや性的な事に偏っている気がするが、これも演出の一つなのだろうか?
まず、フロイトという人物が「いかに変態であったか」を強調したうえで、今日の3本柱の発表になった。
1)フロイトの一番の功績である、無意識の発見と夢分析につぃて。
2)ヒステリーについての解説
3)性的発達段階について。
以上の3点についての発表であった。
そもそもフロイトの精神分析はそれそのものが難解で、理解するのは大変であったであろう。また、非常に哲学的で、内容によっては現代の思想に合わないところもあり、準備は大変であったと思われる。
そんな中でも図を駆使したり、抽象的な哲学的な言葉を、わかりやすいたとえや事例に置き換えたりして工夫して説明していた。30分という短い時間しかないため、なかなか本質のところまで踏みこめないのは致し方ないかもしれない。
ヒステリーという病気や二重人格という概念も、おそらく普通の生活を送ってきたであろう学生諸君には理解するのは難しいであろう。ましてやその治療法ということになるとたぶん、イメージするのは難しいかもしれない。
そのような新しい概念の説明の時には、わかりやすい「たとえ」を用いるのが大変有効である。発表班は「学校に行きたくない青少年が朝になると本当に腹痛が生じてくる」ことや「病気であることが本人の利益になるような状況での本当の失神」などのたとえで説明していた。
最後にフロイトの研究テーマである性的発達段階について大まかに解説していた。「口唇期」「肛門期」「男根期」「潜伏期」「性器期」など、刺激的な言葉が発表されていく。発表者はなんとなく気恥ずかしくなってしまうところであるが、しっかりと学術的に発表していた。
結局最後にフロイトは「すごい変態であった」とまとめてしまっていたが、聞き手に記憶に残る発表とするにはこうした『レッテル貼り』も有効な手段の一つだろう。
「唯物論が幅を利かせている世の中で、無意識を発見したことと、性的なことはタブーとされた世相の中で性的なことについて真面目に研究・発表した」ことなどの功績はちゃんと発表していたので、まぁ良しとしよう。
司会班の議論の進め方は、テーマを提示して、それについて答えてもらう形式を取ってはいるが、発表内容が性的な事であるため、なかなか個人的な発言を引き出すのは難しいかもしれない。こういう『個人として発言しにくい』状況で意見を引き出すコツを覚えると様々な集まりでのファシリテーションに自信がつくだろう。今一歩の成長を期待したいところである。
後半は森田正馬であった。
お決まりの班員紹介に始まって、森田の班の発表は、
1)フロイトの生き様→自殺を考えるまでに至ったフロイトの人生について。
2)その中から編み出した『神経質』という概念と治療法『森田療法』の発見
3)現在でも日本発の唯一の精神療法としての森田療法の位置づけ
3つに分けて説明していた。
ストーリーは明確で非常にわかりやすい。それぞれの単元で強調したいことが、次の単元へと自然につながっている。また、ところどころに象徴的な格言などを織り交ぜることで各単元を特徴づけている。
ストーリーの作り方としてはかなり洗練された感じがする。
神経質=素質×病因×機会
神経質を治すためのキーワード=Not かくあるべし But あるがまま
プレゼンターも、ただ聞き手に質問を振るだけでなく、その答えに対して、適切な受け答えを行っている。この「適切な受け答え」は相手の発言に対してなされるものであり、当たり前であるが、事前に準備をするわけにはいかない。その場で考えて即座に言葉にしなければならないため、かなり高度なテクニックといえる。しかし、今日のプレゼンターは非常にうまく受け答えをしている。ある程度社会人経験のある再入学の学生かと思いきや、弱冠20歳との事。いやはや驚くばかりである。
プレゼンテーションは、練習することによって誰もが等しく獲得できる部分と、その人本来の個性がなせる部分とがあると思う。得意不得意と言ってしまえばそれまでだが、得意な人はその個性をさらに飛躍させてほしい。不得意な人は、苦手でも練習で習得できる部分についてはぜひ練習して欲しい。練習なくして、上達無し。練習あれば必ず上達あり。プレゼンテーション技術は必ずや君たちの将来に役に立つであろう。
司会班も「自分が落ち込んでいたとき、どうしていましたか?」という身近な話題に議論を誘導していた。「寝る」「音楽を聴く」「絵をかく」「なにもしない」などそれぞれの班の答えが面白い。
森田療法が得意としている「神経質」と司会班の提示した「落ち込んだ時」というのはかなり意味合いが違うが、まぁこうした臨床的なところまで1年生が理解するのは難しいだろう。それよりも「何か質問ありませんか?」という単純な質問ではなく、何とか意見を引き出す方法はないか?と努力している点を評価したい。
最近、司会班が特にあの手この手の工夫をしなくても普通に会場から質問・感想が出るような雰囲気になってきている。非常に素晴らしいと思う。
ぜひこの調子で講義を盛り上げていってほしい。 (助教 松浦武志)