症例検討として、『数か月前から起こった呼吸困難・浮腫を主訴に救急外来を受診した80歳台女性』を提示。両下肢の浮腫、呼吸苦、尿量の減少、右眼の腫れ、があった。
ここで植西先生が浮腫の病態を挙げた。
全身性 局所性
・静水圧上昇 心不全、腎不全
・浸透圧低下 アルブミン低下
・Permiability亢進 敗血症、血管拡張剤 angioedema, 炎症
カルシウム拮抗薬、NSAID,ステロイド、漢方薬(甘草)も原因となること、鑑別に心膜炎を忘れないこと。High output failure(貧血、甲状腺機能亢進症、脚気)も。
高齢者の原因は複数のこともある。甲状腺機能亢進症が原因であれば、心房細動で発症することが多い。
呼吸数、呼吸の大きさ、貧血、頚静脈、甲状腺、肺音、腹水、末梢血管拡張(肝臓疾患の感度が高い)を知りたい。
身体所見:BP;112/72mmHg, HR;95/m, Sp02;95%, RR:22/m, BT;36.8℃、JVP;不明、no goiter, lung: clear, heart; no murmur、下肢にSlow-pitting
edema(+)、非常に背中が曲がっている(右眼の浮腫の原因:右下で寝るから)、(逆流性食道炎を起こしやすい)
ここまでで可能性があることは
「胸郭変形」と「薬剤」である。
検査(抜粋)
Hb:8.8, TP:6.1, Alb:2.6, ALP;761, AST;38,
ALT:24, LDH;424,K:3.2, CRP:3.0、HbA1c:5.6CPK:264, CK-MB;18, toroponin I;0.05、low T3 state、HBeAb(+), HBsAg(-)
pH;7.49, pC2;33.2, p2;75.2
ECG;PVC(+),AMI所見なし(Kが低いので補正すべき)
貧血の検索が必要である。アルブミンが低い。
胸部XP;胸骨骨折が疑われる所見あり。(骨粗鬆症の可能性があるが、転移がないか?)
CT:肋骨骨折がある。胸椎圧迫骨折、心拡大、心のう水(+)、胸水少量。肝硬変所見あり。
植西先生が挙げた問題点と対策
#1 dyspnea, edema
・薬剤の中止、SpO2モニター
・利尿剤投与は全身状態をよくしてからでよい。
#2 Anemia
・フェリチン、ビタミンB12、eGFR,便潜血→消化管内視鏡
#3 Fructure, Thoracic deformity
・治療
・ビタミンD
<経過>
・利尿剤で改善
・内視鏡で蠕動障害あり、アカラジアを疑う所見というコメントが返ってきた。抗セントメレア抗体が陽性であった。皮膚粘膜所見なく皮膚筋炎は皮膚科で否定された。
・骨折の手術後、食事のつかえ感は軽快し、アルブミンも上昇し、浮腫も軽快し、4ヶ月後退院となった。
<総合評価>
・骨折の影響が大きいと思うが、複数の要素が影響したと考えたい(Hiccum’s dictum)。
・高齢者ではよく遭遇する。
<寄り道談話>
□その1:少量の酸素投与でSpO2が改善する場合、CO2が溜まっていることが多い。一回換気量が小さいから1Lの酸素でも影響が大きくなるから。
PaO2, FO2は平均気道内圧が関係PaCO2は分時換気量が関係。
□その2;ALP上昇+normalγGPTの原因
・骨(骨折、骨軟化症)
・肝臓疾患(膿瘍)
・PBC(γGPTも上がる)
□その3多発性骨髄腫の4つのno
脾腫(-),骨シンチ(-), ALP 上昇(-),fever(-)
□その4:IVCが相関するもの
・CVP
・右房圧
・ただしJVPとは相関しない。
□その5:低酸素では肺血管は縮む。
□その6:梅干し1ケに塩分2g。
□その7:Limited screloderm
・Calcinosis
・Raynaud
・Esophageal deformity
・Sclerodactylia
・Telangiectagia
□その8:Scleroderma GI
・腸の蠕動低下
・食道炎
・腸管毛細血管拡張
・NOMI
奇をてらうことなく、自然な論調で話が進み、かつ病態生理を駆使した素晴らしいカンファランスであった。(山本和利)