東邦大学天野雄一氏は「身体症状を主訴とした不安・抑うつ状態を伴う患者への対応について」。
症例:動悸と息切れが主訴の19歳女性。対応:パニック障害、社交不安障害。エシスタプラム10mg。ストレスへの気付きが乏しい。運動や生活指導を中心に対応。
背景要因:社交不安障害→薬物療法。
発症要因:大学入学→不安増強
持続要因:ストレスへの気付きが乏しい→運動。
背景:職場での異動。チーム内で衝突。仲間はずれ。休職中。現状を受け入れるのを拒否。薬物療法を開始。共感的な対応。自己解決を促したところ、著しい改善が見られた。
心理的サポートを通じて現状を自らの問題として捉えることが解決に繋がった。
悲嘆については、3つに分類される。1)急性悲嘆、2)統合された悲嘆(回復後に永久に残る悲嘆)、3)複雑な悲嘆(癒されず続く悲嘆)(by M.K. Shear)。遺族のナラティブの尊重、寄り添う、相手に合わせる、等が重要である。完全に治ることが目標ではない。
悲嘆に抗うつ薬を処方すべきか? 悲しい話に涙を流してもよいのか?(患者が苦しんでいるなら処方してよいという意見がフロアから出された)大震災被災後に苦しんでいる人たちの問題に真摯に対応していることがヒシヒシと伝わってくる発表であった。
抑うつ、活動性、ステロイド投与量がRAに関連。うつ症状のある患者は生命予後が悪化する。若い、ステロイド量が少ない、QOLがよい、抑うつが少ないと生物学的製剤がよく効く。RAにシュグレン症候群が合併すると抑うつになる率が増加する。
パニック障害に伴ううつ病をどのように治すか? パニック障害は不安障害のなれの果てである。その後からうつが出てくる。これは治りにくい。社交不安障害(劣等感がある)があるとうつになり易い。特に3つ以上の不安障害があるとなりやすい。パニック障害とうつは遺伝的に相関が高い。時間軸を考慮する必要がある。パニック障害は非定型うつ病に似る。これは対人関係における拒絶感への過敏、鉛様麻痺、仮眠、過食が特徴的である。そして幼稚化が起こる。短期間の躁状態がある(2日間以内)。
氏の提唱する「不安・抑うつ発作」を持つ人は、泣く、自己嫌悪、陰性感情、フラッシュバック、自傷行為、過食、遁走、大量服薬、等を起こす。非定型うつ病にはPTSDの診断基準の80%が当てはまる。拒絶過敏症が中核にある。ノルアドレナリン活動の増加が関係している(褐色細胞腫の患者にも「不安・抑うつ発作」が起こった)。治療の一例として、フルボキサミン150-300mgを1年間続けた例を提示された。そうすることで新しい人格が出来上がるそうだ。
今回の収穫は、不安やうつの患者を診るときには、背景要因、発症要因、持続要因の3つに分けて考えること、災害で悲嘆にくれる患者さんに対して、完全に治ることを目標にせず、遺族のナラティブの尊重、寄り添う、相手に合わせる、ような対応をすること、パニック障害の中核をなすのは、人関係における拒絶感への過敏である、等を知り得たことである。(山本和利)