『アライバル』(ショーン・タン著、河出書房新社、2006年)を読んでみた。
著者はオーストラリアに住むイラストレーター・作家。本書は文字なし絵本である。題名のアライバル(arrival)とは到着、新参者等を意味する。
新たな土地に移住した者の様子を鉛筆書きで、心象風景を入れながら丹念に描かれている。
表紙をめくるとその裏に60人の顔が描かれている。百年以上前の日本女性と思われる絵もある。
妻と娘を残して異国へ旅立つ男性が時間経過に沿って描かれている。絵の中に出てくる文字がロシア語(?)のようである。やっとたどり着いた異国で部屋を探す。表紙に描かれている奇妙な動物が部屋に置かれた壺から出てくる。妻と娘と一緒に撮った写真を屋根裏部屋に飾る。
仕事探しに出かけた街には三角の建物や宇宙船が浮かんでいる。漢字の書かれたプラカードを持つ男もいる。そこで一人の女性に出会う。画面が女性の回想シーンとなる。強制労働のために拉致された女性らしい。
住民は奇妙なモノを売っている。動物のような、植物のような。尻尾にとげのある動物がいる。それがそこで出会った男の目の中に映り、そこから過去に経験した災害や戦争の様子を思い出す。その男の家に招かれて、奇妙な楽器や奇妙な動物、料理に囲まれた暖かいもてなしを受ける。
困難を極める就職活動。軍隊の行進。泥と足。突撃場面。屍の数々。杖をつく片足の男。奇妙な動物。奇妙な植物。奇妙な街並み。現実なのか夢なのか、荒涼とした土地に置かれた箱のようなモノから出ると不安げな妻と娘に再会。娘の顔が歓喜の表情に変わる。
三人で幸せに暮らす生活。大きな鞄を持った見知らぬ女性に娘が出会う。親切に道案内をしている場面で終わっている。
絵本を文字で解説することは無理がある。この素晴らしさを体感するには、この絵を見るしかない。絵本であるが、SF小説でもある。読む者によってそれぞれに様々なことが想起されるだろう。本書はセピア色の表紙のA4版であり、家の居間に飾っても遜色ない。友人や高学年の子供への誕生日プレゼントに最適かもしれない(2500円)。(山本和利)