ある研修医の経験症例。往診と外来の研修が主体である。往診患者は50名。単純CTも撮れる。血液、尿、単純XPはできる。いくつかの症例の紹介。家族関係、心理的問題などに注目して話が進んだ。この地域は高齢化率が高い。町の中の写真を撮ってそれに名前を付ける実習を行った(photovoice)。独居者も多い。
研修医から振り返り1題。
81歳男性。左肺上葉腺癌。COPD、脳梗塞後遺症、認知症、脂質代謝異常。高尿酸血症。
服飾関係の仕事。脳梗塞後、家族と絶縁状態である。高齢者住宅に居住している。ノロウイルス、インフルエンザに罹患。頻回に受診する。訪問時、息苦しさを訴えることに対して、生物心理社会モデルで説明を考えた。
不安が強かったが、抗不安薬を処方する前に、臨床倫理4分割を用いてスタッフで討論を行った。
1.医学的適応、2患者の意向、3QOL,4周囲の状況に分けて問題点を取り上げ、解決の仕方を話し合った。このような拡大コンセサス・ベースト・アプローチが終末期のあり方を決定することが重要であると考えられた。
クリニカル・パール:終末期のあり方が明確になっていない症例では、施設等を含めた幅広い職種の担当者が集積する在宅合同カンファランスを行い、コンセンサスを形成するすることが重要である。
研修終了生からの報告。
さまざまな病院改革を進めている。仕事を増えている。
20歳台女性。前日から発熱でふらふらして動けない。軽度咽頭痛あり、インフルエンザ陰性。WBC:43100, Hb
5.1g/dlで救急担当医からコンサルトを受けた。CRP;27.血液内科に一声かける。問診、身体診察、妊娠反応をチェックした。顔面蒼白。BP:90/50mmHg, HR:110/m、SpO2:98%, 38.7度。数年前に出産歴あり、その後死亡。本人は「今、妊娠の可能性はない」はないと断定している。下血、黒色便はなし。診察で下腹部に硬い腫瘤あり。エコーで子宮と思われるところに、モヤモヤした所見あり。妊娠反応は陽性であった。婦人科医を呼んで診察してもらったところ、子宮の中で胎盤が腐っている(そっと自宅分娩していた)。「子宮内胎盤遺残による敗血症」と診断。衝撃的な症例であった。
クリニカル・パール:女性を見たら妊娠と思え。女性は呼吸するように嘘をつく。
ミニ・レクチャー
81歳女性。左足だけがガクガクとして立てなくなった。救急搬送された。会話はできる。バイタル問題なし。既往:高血圧、弁膜症、脊椎ヘルニア。外傷歴なし。
「何を考え、どんな所見をとるか。」
不整脈なし。脳神経:異常なし、腱反射:異常なし。神経所見異常なし。
「脳梗塞、心原性失神を考えたい。」
CTR:64%(臥位),ECG;AMI所見なし。血液AMI所見なし、低血糖なし。1時間後のECG:著変なし。「TIAの疑い」として、本人の希望により帰宅とした。後日、脳外科へ行くように紹介状を書いた。
6日後、脳梗塞であることが判明した。
TIAに時間の区切りはなくなった。30分以内に50%で症状が消える。
24時間以内に症状が消えたうち、33%が脳梗塞を起こしていた。
24時間以内にMRIを撮る必要がある。
TIA発症後90日以内に15%が脳梗塞を起こす。
ABCD2スコアという予後予測因子がある。
90日以内の治療効果:NNT:21
UpToDateはアスピリン+ジピリダモール、またはクロピオグリルを推奨している。
学生、初期研修医にとっても身のあるカンファランスにしてゆきたい。(山本和利)